☆ 戦後70年 ☆


 戦後70年、戦争は遠い昔の話しになりつつある。中国、韓国との間で歴史認識を巡って相違が生じ、関係悪化に繋がっているが、時の経過と共に戦争が時代の影に消えていくことは避け難く、解決は容易ではない。国内では、両国の目覚ましい発展に対する警戒感も手伝い、相手の主張に耳を傾けることよりも、日本の利益をはっきりと主張することの方が重要だという雰囲気が広がっている。それに伴い、憲法第9条の変更に拒否感を持つ者も減っている。夏に予定されている安倍首相の70年談話にも、こういう国内の雰囲気が反映されるに違いない。

 戦前の日本は軍国主義、侵略者であり、その反省に基づき行動しないとならないという歴史認識が、かつてはリベラル、左翼を中心に支配的だった。それは間違った考えではない。一部の者を除けば保守でもそのことを全面否定はしない。しかし、日本の責任はどの範囲なのか、反省はいつまで続ける必要があるのか、それについてはコンセンサスも参照すべき先例もない。若い学生に「君たちには南京虐殺や従軍慰安婦に関して責任があり、生涯反省し続けなければならない」と言ったら、多くの者から反発を受けるだろう。実際、そのようなことを要求することは酷であり、無理がある。国内外、過去・現在を問わず、歴史認識には、常に、その時代の社会体制とその行動を正当化するために使われるという宿命があり、また愛国心と強い関わりがある。それゆえ対立を完全に解消することは難しい。「大いに議論すべし」という意見もあるが、寧ろ歴史認識が話題の中心にならないように、互いに慎重かつ冷静に行動することが賢明だろう。首相の談話も他国の立場に十分配慮したものとしてもらいたい。

 戦後の混乱期、高度成長期、バブル期、そして低迷期と日本経済は推移してきた。総じて言えば、日本は豊かになったし、敗戦直後と比較すれば貧富の格差は縮小した。公害問題や男女差別なども徐々にではあるが改善している。しかし、これから先は相当に厳しい。国内の輸出企業が、諸外国特に途上国の企業の競争力増強で、市場における優位性を失いつつあり、輸出頼みの経済では立ち行かなくなる可能性がある。そうなればただでさえ厳しい財政状況が益々厳しくなる。少子高齢化も経済にとっては大きな重しとなる。景気と財政が悪化すれば既得権益を持つ者とそうでない者との格差は拡大していく。さらに、経済がグローバル化した結果、国内の景気対策だけでは景気や財政の改善が見込めなくなっていることが事態を複雑かつ困難なものにしている。

 大胆な金融緩和だけで安定的な経済を確立することはできない。金融緩和で資金が市場に溢れれば、円安が進み輸出企業の業績が改善し株高になることは当たり前で、それだけでは経済が安定軌道に乗ったことにはならない。株高は消費の活性化、景気浮揚に貢献するが、今の急激な株高は、金融緩和で市場に溢れた資金が本来の目的である生産活動に向かわず株式市場に流れ込んでいる記しとも受け取られ、喜んでばかりはいられない。グローバル化が進んでいる現在、各国の協力体制の確立・維持・拡大を進め、各国がそれぞればらばらの経済政策を取るのではなく、各国協調の下で市場を制御することが必要となる。日本では85年のプラザ合意で円高が一挙に進み、それがバブル、バブル後の景気後退・低迷に繋がったことから経済分野での国際協調にいささか消極的に見える。しかし米国発のリーマンショックの世界経済への波及を見れば分かる通り、各国が協調して整合した経済政策を取らないと景気後退の防止、景気浮揚は覚束ない。そのためには、まず国際平和の確立が欠かせない。信頼関係が確立しない限り協調政策は取ることができないし、取ったとしても、すぐに各国のエゴや猜疑心で綻びが生じてしまう。特に、貿易を経済の要とする日本にとって国際平和は何がなくとも絶対に欠かせない要件であることは間違いない。そのことを肝に銘じて行動すること、それが近隣諸国をはじめとする諸外国との良好な関係を築く礎となり、そのとき初めて、経済分野での諸課題を解決することが可能となる。憲法改正が話題になってきているが、経済的な観点にも配慮したうえで議論を進めたい。


(H27/3/1記)


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