高齢者の定義は様々だが、世界保健機構(WHO)は65歳以上を高齢者と呼んでいる。日本でも公的年金の支給開始年齢が段階的に65歳へと引き上げられ、65歳までの雇用が企業に義務付けられたこともあり、65歳が高齢者の目安とされることが多い。そんな中、昨年9月には、総務省から、65歳以上の高齢者の総人口に占める割合が4分の1に達したと発表された。 高齢者の比率が増えることは否定的に捉えられることが多いが、世界全体の人口急増を考えると、先進国の一角を占める日本が高齢化、人口減少の道を歩んでいることは必ずしも悪いことではない。高齢化の進展と共に、青壮年層に引けを取らない仕事ができる健康な高齢者が増えており、高齢者のノウハウを活かす職場を積極的に創出していけば日本経済に悪影響どころか良い影響をもたらす可能性がある。労働人口の減少も、先進技術の積極的な活用と組織内の無駄な業務の見直しを進め生産性の向上を図っていけばさほど大きな問題とはならない。生産性向上だけでは追いつかないほど高齢化が急激に進展したとしても、諸外国との関係を良好に保ち、労働者の受け入れを進めて行けば解決できる。それは発展途上国への技術の移転、世界の人々との交流の拡大に繋がり日本にとっても世界にとっても好ましい。こうして考えていくと、高齢化社会をネガティブに捉える必要はないことがはっきりする。 そうは言っても、高齢者の側からするとリスクは小さくはない。インフレ誘導は景気浮揚には有効だが、年金生活者あるいは定年が間近な者にとっては大きなリスクになる。年率2%のインフレが続くと35年で物価は倍に跳ね上がる。公的年金は物価スライド制だが、現在の財政状況を考えれば2%のインフレに見合っただけの増額が続けられるとは思えない。高齢者の増加や寿命の伸び、年金保険料未払者の増加などで財源が枯渇し物価スライドが実現できない可能性は高い。35年間も公的年金を受給する者はほとんどいないとは言っても、倍にならずとも1.5倍になれば相当に苦しい。インフレ率2%ならば21年で1.5倍になる。ちなみにインフレ率が3%になると、14年で物価は1.5倍、24年で物価が倍になる。そもそも公的年金だけではゆとりある生活は難しく、退職するまでに貯蓄が必要だと言われるが、インフレを考えると貯蓄すべき額が急激に大きくなり、若い者ならばいざ知らず、60が近い者には対応が難しい。 このことは、逆に言えば、高齢者の職場を確保することがいかに重要かということを示している。周囲を見回しても、65までは勿論のこと、65を超えても仕事を続けたいと言う者が少なくない。高齢社員は給与の割に能力が低く仕事をしないと悪口を言われることが多いが、総じて言えば、若い社員よりも経験がある分、仕事のスキルは高い。健康管理が充実してきたことで60を過ぎても、いや65を過ぎても、心身ともに十分に働ける体力を維持している者が増えている。安倍政権は女性の能力活用に大変熱心で、それはとても良いことだが、女性だけではなく高齢者のノウハウの活用も重要であり、かつ有益であることにも注目するべきだろう。高齢者も仕事を続けていく限りは、好景気とインフレの恩恵に与ることが可能となり、同時に、政府にとっても年金の運用が楽になる。 高齢者のノウハウの活用が進めば、高齢化社会は決して灰色の世界にはならない。だがそのためには、行政が企業と共に高齢者のノウハウ活用の場を積極的に開拓していくことが欠かせない。また同時に高齢者の能力を実際以上に低く見積もる傾向を改める必要がある。確かに、やる気のない高齢社員、職場のお荷物的存在の高齢社員もいるだろう。だがお荷物的存在は実はどの年齢層にもいる。相対的な比率はいささか高いかもしれないが、高齢だからと言って、役員などに昇進した者以外は能力がないなどと考えるのは間違っている。まずは、そのことをよく認識してもらいたい。 了
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