☆ 吉野梅郷 ☆


 今年で見納めと聞いて、2年ぶりに吉野梅郷へ出掛けた。プラムポックスウイルスなる梅を枯らせるウィルスが蔓延して、木が次々と枯れている。このまま放置すると被害が拡大するため、花が散った後、4月に吉野梅郷の中心、「梅の公園」の梅を全て伐採することが決まっている。昨年こそ梅が見ごろになる時期に所用で観梅に行けなかったが、9年前から毎年、観梅に訪れていたので残念でならない。ウィルスが蔓延していることを象徴するかように、最盛期に比べると梅の木の数が半減している。手許にある9年前の写真と見比べるとそれがよく分かる。それでも、元気な木は今でも見事な梅の花を咲かせている。園内は好天も手伝い観客で超満員、誰もが思い思いに梅の花を愛でながら楽しんでいる。私もいつになく穏やかな気分になり、見知らぬ人とも屈託なく言葉を交わす。こういう楽しい一時を過ごすと尚更、伐採しないで済ませる方法はないのかという思いが強くなる。だが、今は見事な花を咲かせている木もすでに感染しているに違いない。梅の再生のためにも伐採は致し方ない措置だ。

 全て伐採しウィルスが駆除されたことが確認されてから梅の木を植える。梅郷が再生するには10年は掛かると言われている。健康を保ちその日を楽しみに待ちたい。尤もその頃は70に手が届く歳になっている。果たして坂の多い公園を自由に歩くことができるかどうか、根性なしの私としては、一つの大きな挑戦となる。

 しかし、自然のままなら、これほどまでに梅の木が密生することはない。桜と同様、人が楽しむために自然を改変して、桜や梅を一つ場所に密生させる。人はそれで大いに楽しむことができるが、おそらく桜や梅にとっては迷惑な話しだろう。偕楽園のように密生していてもウィルスが蔓延しない場所もあるから、密生しているからと言って必ずウィルスが蔓延するとは限らない。だが一旦ウィルスの感染が広がると、緩衝地帯が無いから、感染はとどまるところを知らない。偕楽園よりも近隣に人が少なく、梅の公園も多摩川そばの山の斜面に位置し手入れが容易ではない。そのため感染の広がりを防ぐことができなかったのだろう。温暖化などの影響もあるかもしれない。

 人の手が入る前の自然を完全に復元することはできない。しかし、私たちの記録には人が入る前の自然の姿が残っているはずだし、生態学の研究は自然本来の姿を理論的に描き出すことができる。山の斜面が梅の花で埋まるのは素晴らしい景観だが、そういう豪華絢爛なものばかりを求めるのは人間のエゴだ。人が自然を大切に思うのであれば、自然が自然であるような場所を求め、そこで安らぎが得られるように発想を転換する必要がある。10年後の「梅の公園」は梅が主役ではありながらも、梅以外の様々な樹木が自然に近い形で寄り添っている、そういう場所になることを祈りたい。


(H26/3/23記)


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