鳥羽水族館で飼育されているダイオウグソクムシが話題になっている。餌を与えても一向に反応せず、5年間一度も食餌をしたことがないという。それでも体重は飼育を始めてから大きな変化はない。どうやって生命を維持しているのか、実に不思議だ。 「ダイオウグソクムシ」、名前がそもそも凄い。名前だけで一生忘れられないような気がする。図鑑によると、ダイオウグソクムシは、等脚類(ダンゴムシの仲間)の一種で、大西洋、メキシコ湾、インド洋の水深200メートルから2000メートルの深海底に棲息する。成虫は、体長40センチ、体重1キログラムを超え、等脚類では世界最大を誇る。腐食性(死骸を食べて生命を維持する)で、巨大な黒い眼に特徴がある。日本近海にもオオグソクムシという親類がいるが、こちらは大きくても15センチ程度でスケールが違う。ネットの記事で初めてその存在を知ったが、以前から人気者だったらしく、ダイオウグソクムシのぬいぐるみが売られていたり、アニメのキャラになっていたりする。 深海はロマンに満ちている。子供の頃から、宇宙よりも深海が好きだった。宇宙は無限の広がりと変化を持つが、何となくリアリティがない。特に近年は、物理学と観測技術の進歩で、宇宙全体の構造や歴史が解明されて、神秘性も薄れている。その点、深海は宇宙よりももっと身近で、しかも神秘に満ちている。何と言ってもたくさんの生き物がいるところが良い。世界で一番深いマリアナ海溝が日本からそんな遠く離れていないということも親しみを与えてくれる。 水深2000メートルと言うと、海水温は2度から3度、水圧は200気圧に達する。光は到達せず周囲は漆黒の闇の世界。もし、人間がそういう世界に移り住んだらどんな気分になるだろう(勿論生身では巨大な水圧に到底耐えられないが)。直感的には、退屈で退屈で堪らなくなると思うが、これほど平安な境地はないという気もする。少なくとも一切の煩悩は過ぎ去っていくだろう。悟りを開くとはこういう世界に住まうことなのかもしれない。 ダイオウグソクムシの生態や生活環は不明な点が多い。巨大な黒い眼で何を見ているのか、なぜ5年も食餌をしなくても平気なのか、寿命はどれくらいなのか、食糧の乏しい深海底でなぜこれほど巨大化するのか、多くの謎に包まれている。 これから研究が進み、深海のことも、ダイオウグソクムシのことも、段々と解明されていくだろう。だが、何でもかんでも科学で解明すればよいということではない。深海の謎も、ダイオウグソクムシの謎も、永遠に謎のままにしておいて欲しい。ただでさえ忙しない現代、これ以上ロマンを失ったら遣っていけなくなる。 了
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