☆ アベノミクスと国家 ☆


 早くも流行語大賞の1位候補になっている「アベノミクス」だが、このまま順調に推移するのだろうか。

 無制限の金融緩和は、邪道とまでは言わないが奇策だろう。全ての国が景気対策と称して無制限の金融緩和を行えば、過剰な資金流入で途上国経済はハイパーインフレで破綻し、転落が準備されている金融バブルが再発する。日本のように、デフレで社会が停滞し、その一方で生活基盤は比較的安定した先進国だけが短期的に採用することを許される便宜的な政策に過ぎない。

 財政出動は限界がある。これ以上財政赤字が膨らむと本当の危機が遣ってくる。少子高齢化と国際競争の激化で国際収支の悪化は避けられず、膨大な赤字国債を支えている個人資産も急速に目減りしてくる。そもそも財政出動で経済を活性化させる目論見には限界があることは、理論的にも、経験的にも明らかになっている。だからこそ(ある意味で過剰に)金融政策に期待が寄せられる。しかし金融政策と財政政策だけでは未来はない。

 デフレ対策の3番目の柱「成長戦略」こそが将来の鍵を握る。環境や資源の制約の中で如何にして健全な経済成長を実現するか、これが最大の課題になる。これができなければ、無制限の金融緩和はスタグフレーション(インフレと景気低迷の並存)に終わり、財政赤字が増大する。

 残念ながら、現状、成長戦略は言葉だけで実効性が伴っていない。携帯電話大手3社の業績は好調だが、それを支えているのは、アイフォンのアップルや携帯用OS(アンドロイド)のグーグル、海外のスマホ製造業者(サムスンなど)で、日本企業は見る影もない。医療やバイオの分野でも立ち遅れが目立つ。グローバル経済の中で好調を維持しているのは自動車産業くらいで、他の分野では欧米諸国、韓国、中国などに明らかに後れを取っている。地球環境や資源の制約を意識して経済活動を行わなくてはならない現代、これから期待される産業と言えば、コンテンツやソフトウエア制作・販売など無限に再生・複製可能で、資源消費が少なく、自然環境負荷も小さい分野が挙げられるが、この分野でも日本は立ち遅れている。日本は、ICTのハード的基盤は整備されているが、様々な規制もありソフト的な基盤が脆弱で、これらの産業の活性化を阻害している。また日本社会が、「物作り」の「物」と言えば「手で持ったり触ったりする物」という観念に囚われ、コンテンツやソフトウエア開発を軽視する風潮があることにも問題があろう。

 近頃、2%のインフレ目標の達成だけに政治家も、報道も目が行っていることも危惧される。「景気が良くなるとインフレになる」は一般的に真実だと言ってよいが、「インフレになると景気が良くなる」は例外が多い蓋然性に過ぎない。

 いずれにしろ、アベノミクスの成否は、成長戦略が軌道に乗るかが鍵を握る。しかし、日本企業の国際競争力の低下、新技術や新サービスの開発力の弱さ、世界でもトップの急激な少子高齢化、これらの要因を考えると、難しいと言わざるを得ない。バブル崩壊後、民主党政権を含め全ての政権は、成長戦略を描き実行に移そうとした。しかし悉く失敗に終わった。大々的な金融緩和という支援を受けても、それだけでは成功は難しい。

 ではどうすればよいのか。誰も分からない。ある意味、良し悪しは別として必然的に進むグローバル化の中で、日本は世界に先駆けて、「国家の限界」という課題に直面しているのかもしれない。中国のように一党独裁を実現して、無理やりにでも国家の力を高めるという戦略は日本では無理だし、望ましいことでもない。だからと言って無制限に規制緩和(企業の従業員解雇の条件緩和など)を進めたところで、格差が拡大し混乱が増すだけで社会の活性化には繋がらない。

 アベノミクスは、2年くらいは上手く機能するが、成長戦略が軌道に乗らず、その後大きく躓くことになると予想する。そのとき、国家には代替策はない。さて、ではどうするか。国家の存在そのものを問うことを余儀なくされる根源的な問いが私たちの前に現れることになる。


(H25/4/27記)


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