☆ インフレに耐えられる? ☆


 自民党はインフレターゲットを導入すると言っている。2%、3%などいろいろな数字が上がっているが、バブル崩壊以来20年もデフレが続き、いよいよ最後の手段(無制限的な金融緩和)が出てきたという感じがする。尤も、そもそものインフレターゲットは、インフレを抑制するために導入された手法で、デフレ克服に有効なのか、副作用が強すぎてハイパーインフレになる恐れはないのか、多くの課題が残されている。しかし、ここではそれは論じない(筆者には論じる能力もない)。長くデフレに慣れた日本人と日本社会がインフレに順応できるか一寸考えてみたい。

 急速な高齢化社会を迎えて、近年、ゆとりある老後にどれくらいの資金が必要かという試算をよく見かける。大よその目安は、夫婦二人で月40万円、年間500万円程度というところらしい。夫婦とも60で退職して90まで生きるとする。毎年500万円だからトータルで1億5千万円必要ということになる。この数字は普通のサラリーマン家庭ではかなり厳しい。公的年金だけでは到底足りず、企業年金を加えてもまだ足りない。多額の貯金や不動産があればよいが、1億円を超える金融資産を持つ家計はごく少ない。また都会では広い土地を所有する者はごく一部で、地方は広い土地を持っていてもそこから得られる収入は限られている。こうしてみると、今では珍しくなくなった90歳まで生きる者は、70代に入っても身体が動く限り働き続けるか、子供の世話になるか、この二つしか選択肢がない。子供のない夫婦は、子供がいる夫婦よりも総じて金融資産は多いとは言え、選択肢がなく苦しいことに変わりはない。

 ところが、この試算は実は物価が上がらないことを前提としている。もし毎年3%のインフレが続くとしたら、90まで生活するための資金はざっと計算して2億5千万円に膨れ上がる。インフレになれば公的年金が若干上がる可能性はあるが、インフレ率ほど上がることはない。企業年金は普通上がらない。こうなったら、ほとんどの高齢者は、全くお手上げで、子供の負担を考えると子供に頼ることもできず、国の保護を受けるしかない。

 こうしてみると、高齢化が急速に進む日本社会でインフレターゲットを導入するのはかなりのリスクを伴う。インフレで企業の売り上げが急増し、歩調を合わせて労働需要増加、賃金上昇と進めばよいのだが、いまの日本の企業体質、国際市場での競争力低下を考えるとそう簡単にはいかない。高齢者の生活が苦しくなり、若年層も思うように賃金が増えず、ただ物価が高くなるだけという最悪のシナリオが現実化する可能性もある。そうなると、社会保障費の増大で、インフレ効果は相殺され財政は悪化する。更に不安なのは、20年間インフレをほとんど経験していない日本人が果たして物価が目に見えて上がっていく状況に耐えられるのかという点だ。おそらく耐えられない。そうなると世界に誇る日本の治安秩序の良さも怪しくなっていく。こうして日本は3重苦、4重苦に悩まされることになる。

 もちろん、こんな悲観的な予測をする必要はないかもしれない。インフレになれば通常雇用は増加する。雇用が増加し賃金が上がり、同時に企業の利益が増加すれば財政状況は改善する。こうなればインフレターゲット施策が日本経済に活気を取り戻す起爆剤となる。

 結果がどうなるかは分からない。そもそも自民党が政権を奪還すると決まった訳でもない。それでもデフレ脱却の切り札として、たとえどの党が政権を担ってもインフレターゲットはいずれ導入されることになる。財政再建にとってもそれは有力な選択肢だからだ。しかしここで述べてきたとおり、インフレに備えることは容易ではない。果たして、それが上手くできるのか、少なくとも私自身は自信がない。


(H24/11/24記)


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