「経済学を学ぶ理由は経済学者に騙されないためだ」とロビンソンは言った。これはあらゆる学問に当て嵌まる名言だ。学者が嘘吐きだというのではない。学者も普通の人間で、間違った考えを抱くこともあるし、私利私欲のために事実を歪めることもある。そのことを非難することはできない。ところが学者は一般人とは比較にならない高い権威を持ち、その言葉を多くの者は信頼する。だからこそ、学問を修め専門家の言葉を批判的に吟味する能力が必要になる。専門家と同等の知識を得ることは無理でも、初級か中級程度の知識があれば学者や専門家の主張の疑問点や不備などに気付き、疑問や反対意見を表明することができるようになる。 特に私たちの生活に直結する経済学では、学ぶことの意義は大きい。しかも現代経済学は数学を駆使すると言っても、最先端の物理学のような高度なものではなく、また数学をすべて理解できなくとも、基本的な考え方は理解することはできる。現代人にとって経済学は必須科目だと言ってよい。 「所得税は働く者だけに課税され、働かない年金生活者には課税されないから不公平で、消費税の方が公平な税だ」などという言葉が経済評論家と称する者の著作にあったが、承服しがたい。全く働かず株式の配当や譲渡益だけで暮らしている者がいる。しかも税率は働いている者よりも低い。一方、年金生活者でボランティア活動などを通じて社会に大きな貢献している者はたくさんいる。所得だけではその人物の社会的貢献度は測ることが出来ない。どんなに優秀な者でも、彼(女)が高い収入を得ることができるのは、人々が法を順守し、真面目に働き、社会秩序を維持しているからだ。千倍や一万倍の所得格差・資産格差は理に適っていない。この不合理な格差を是正し社会的公正を実現するのが所得税の重要な役割だ。 「高所得者の課税を強化すると経済が低迷し、結局、低所得者の不利益になる。寧ろ、高所得者の減税を行い活発に消費してもらう方が低所得者にとっても有利だ」という意見をよく耳にする。しかし、大金持ちは減税しても、その余剰分を有価証券や海外の土地購入などに充てるから経済活性化に繋がることは少ない。寧ろ高所得者から高い税金を徴収し中間層以下の階層に富の再分配を行う方が、中間層の消費が活発になり経済へ好影響を与える。 専門家の意見に対するこうした異論に対しては、もちろん専門家からの再反論があろう。だが学者や専門家の方が正しいとしても、その意見を鵜呑みにしないことの意義は大きい。 医療・衛生や他の学問でも同じで、学ぶことで様々な意見や主張に健全なる懐疑精神と探究心を以て臨むことができる。学などという物をなまじ身に付けるから却って不幸になるということはある。しかし良し悪しは別にして、現代は情報社会、知識基盤社会だ。そしてどんなに優れた人でも、常に誠実とは言えないし、常に賢いとも言えない。だから、学ぶことの意義は限りなく大きい。 了
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