警察官が痴漢で懲戒免職になったという記事が掲載されていた。本人曰く、「警官になる前からスカート捲りなど痴漢行為をしていた。警官になれば、まともになれると思ったが、駄目だった。」とのこと。こういう人物が警察に就職できたことがちょっとした驚きだが、いずれにしろ警官になっても悪癖を治すことはできなかったらしい。 たいていの者は、他人を意のままに操ることはできないが、自分自身を(特に自分の心を)制御することは容易だと思っている。だからこの元警察官はだらしない男だと皆非難する。確かに、美しい女性や露出が多めの女性に出会うと胸がときめき不埒な思いがこみ上げてくるという男は少なくない。でも、皆、それを抑えて軋轢を生じることなく普通に社会生活をしている。ところがこの元警官にはそれができない。だから、駄目な奴だということになる。 私も40過ぎになって、パニック症に襲われるまでは、自分の制御など簡単だと思っていた。むらむらしても人に迷惑が掛からないで処理することができるし、誰も見ていないからと言って万引きなどしない。悪しき思いや馬鹿げた考えを抑えることなど容易いと思い込んでいた。しかし、パニック症候群に悩まされるようになって考えが変わった。最初の発作のときはやむを得ないが、診断が確定し、何も恐れるものはないことが分かっても自分が制御できない。突然襲ってくる動悸や頻脈、眩暈、発狂するという感覚、それで死ぬことはないし、発狂することもない、それは十分に分かっている。でもパニック発作を抑えることができない。 自分で自分を制御することは必ずしも容易いことではない。元警察官を弁護するわけではないが、警官が痴漢をすれば即刻懲戒免職になることは本人も分かっていた、経歴に大きな汚点が付く、それも分かっていた、ところが目の前に気になる女性がいると自分を抑えきれなくなる。もちろん心神喪失状態でも心神衰弱状態でもなく罪は免れない。しかし精神科医や臨床心理士などの支援を受けないと悪癖は簡単には治らないと思う。 日頃、人は感情を知性で制御して、(自然とは言えない)社会生活に順応している。この元警察官も痴漢行為を除けば、たいていのことは理性的に処理できていたに違いない。でも知性は万能ではない。心を病むとそれが露わになるし、そうでなくても、元警察官のように知性が制御できない領域があったりする。 人間とは非常に苦しい存在だ。他の動物は感情の赴くままに行動しても問題が起きることはない。相手からの反撃で重傷を負っても、警戒心が強まるだけで、人のように苦悩することはない。人は皆自分を制御し社会に順応しないといけない、そしてそれは容易くできると信じている。だからそれが出来なかったとき人は苦悩する。そして周囲からは非難され時には罰せられる。どんなに科学技術が進歩しても、自分が制御できずに苦悩する宿命にある人間は、心の安らぎのために信仰を求める。「神など虚構だ」と一部の科学者は断言するが、人がどのような存在なのかが分かっていないように思う。 自分を制御することは容易ではないと認識した方が良い。そして制御できず周囲に迷惑をかけている者はすぐに精神科医や臨床心理士に相談することを勧める。 了
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