☆ 神保町の魅力 ☆


 神保町の「東京堂書店」が新装開店した。まるで欧米の書店のような佇まいだ。内装も一新、通りに面して一階にカフェがあり、2階、3階にも席がある。落ち着いた雰囲気でゆったりと時を過ごすことができる。

 尤も、多数の古くからの古書店が並ぶ日本有数の古書店街、神保町には一寸雰囲気がそぐわない。斜め横の伝統的な作りの大型書店「三省堂書店」ともミスマッチな感じがする。一つ一つの建築物の良さが町全体の美に繋がらない東京という都市の欠陥がここでも露呈している。

 そうは言っても悪くない。周囲がこの新名所と共鳴し、美しい街並みを生み、新刊本と古書が共存する新しい文化の発信地として発展することを期待したい。

 そのポテンシャルは十分にある。新宿、池袋、丸の内、渋谷に大型書店が軒を並べ、神保町の地位は低下したと言われる。確かに集客力では遅れを取っているかもしれない。それでも、古書という時代を超える文化の集積が空間に独特の色彩を与える神保町の雰囲気は、他の街の追随を許さない。新宿や渋谷、池袋はお金さえあればいくらでも模倣することができる。しかし神保町はお金では買えない。文化の蓄積がなければこういう場所は作ることができない。それを反映して、神保町の新刊書店は蔵書数では新宿や池袋の大型書店に引けを取っても、置いてある書籍に他にはない個性がある。東京堂の文芸書や写真集、三省堂の古地図、ときにオタクの聖地とも呼ばれる書泉(グランデ、ブックマート)の希少本、大型書店ではないがブックハウスの児童書、書籍の点数の少なさを補って余りある広さと深さが神保町の本屋街にはある。人気の新刊書、大学生や院生の教科書や専門書を短時間で買って回りたいのであれば、新宿や池袋が便利だ。だが本好きにとって、神保町には他の場所にはない魅力が満ち溢れている。

 神保町には経済的合理性のみを追求する現代の資本主義的市場に還元されない文化が残っている。時代とともに装いを新たにしながら、この素晴らしい文化が継承されていくことを心から願いたい。


(H24/4/22記)


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