☆ 原発と巨大都市の限界 ☆


 若い頃から原発には疑問を持ち反対をしてきた。今でも「原発などなしで済ませたい」が本音だ。多くの者も同じ思いだろう。しかし現在の巨大都市を考えるとすぐに原発を廃止することは難しい。

 代替エネルギーとして太陽光を思い浮かべる者が多い。だが太陽光は弱い。日本では一年で一番陽の光が強いときでも、1平米当たり1kw程度のエネルギー量しかない。太陽エネルギーは地球全体で見れば巨大だが、単位面積で見えるとごく小さい。太陽電池の変換効率は高性能なもので20%程度、将来の技術開発を期待しても40%くらいが限度だと言われる。だから、1平米で得られる電力は0.4kw程度でしかない。百万平米(一キロ四方)にびっしりと太陽電池を敷き詰めることができても、その出力は40万kwにしか達しない。最新の原子力発電機が1基で常時100万kw以上の給電ができることを考えると、ごく僅かでしかない。それも夜や悪天候では使えず冬になると出力は激減する。そもそもそれほど大量の太陽電池を作ることができない。巨大に見える太陽エネルギーも実際は単位面積当たりで見れば小さい。逆に言えば、だからこそ生命体は安心して地上に暮らすことができる。太陽光が、原発のような巨大エネルギー量を有していたら、地上に生命が存在する余地はない。

 自然エネルギーと原子力を比べてみると、前者の弱さ、逆に言えば、心地よさがはっきりする。真夏の正午、太陽光は熱中症を引き起こすこともあるが、それでも用心していれば命を落とすことはない。冬の太陽は冷え切った身体を温め精気を与えてくれる。その代わり、太陽光は精々電灯を灯すことくらしかできず、自動車を走らせることはできない。風は強い時には車を飛ばすこともある。しかし、さすがにどんな強い風でも新幹線を時速300キロで走らせることはできない。自然エネルギーと比べ、核エネルギーは途轍もなく大きな仕事をやってのける。電車だって何だって巨大な力で後押しすることができる。その一方で核兵器は厖大な量の生命を破壊する。

 巨大都市は単位面積当たりで膨大な量のエネルギーを消費する。だから、巨大都市には単位面積当たりで巨大なエネルギーを生みだす原発が相応しい。自然エネルギーだけでは巨大都市、高度な機械文明を支えていくことはできない。現代の世界では、7割の者が都市に暮らすと言われる。その中でも、東京都と隣接県を含めた首都圏への人と物の集中は凄まじい。このような密集地では、狭い面積で大量の電力を生みだす原発に頼らないと都市機能を維持することは難しい。

 この事実から、未来の姿が見えてくる。原発を廃止し、自然と調和した世界を築くためには、現代世界を支配する巨大都市を放棄する必要がある。たとえば、日本を例に取れば、首都圏の人口を現在の4分の1以下、上限で800万まで減らす。その一方で、過疎が進む地方の県の人口を5倍程度に増やし、日本全土がほぼ等しい人口密度を有するように社会を変える。それができれば、各地方にあった自然エネルギーを利用して原発不要の生活を送ることができるようになる。場所によっては太陽光と風力を、別の場所では水力と地熱を、別の場所では太陽熱とバイオを、各地域の自然環境の特色に合わせて自然エネルギーを選択、活用して生活と産業活動に利用する。こうなれば、私たちは晴れて原発とお別れすることができる。原発だけではない。(再生可能でない)枯渇性資源の石油を使った火力発電ともおさらばだ。二酸化炭素排出量を抑制し、原発の放射線を封印し、自然と調和しながら人々は暮らしていく。

 こういう世界は理想郷に感じるかもしれない。しかし、それほど甘くはない。巨大都市に人・物・金が集中している現代よりも生産性は落ちるだろう。そのことは人々が質素な生活を余儀なくされることを意味する。それは大量生産・大量消費・大量廃棄に慣らされてきた現代人にとっては、少なくとも始めは、辛い生活になる。さらに自由で人権が擁護された社会では、簡単に都市人口を大幅削減して地方に割り振ることはできない。移住を市民に強制することができないからだ。だとすると、人口密度を広く均等化するには長い時間を要することになる。それゆえ、たとえ原発がなく自然と調和した世界が理想郷だとしても、そこに至る道のりは限りなく遠い。

 それでも原発なき世界の実現は不可能ではない。そして、それを目指して今行動を起こすべきときなのではないだろうか。但し、そこには大きな痛みを伴う。たとえば冷房の効いた快適な生活を捨てなくてはならないかもしれないのだ。だがおそらく慣れればそれが当り前のことになる時が必ず来る。ただそこに至るにはこの先長い時間を要することは覚悟しないといけない。


(H23/7/16記)


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