☆ 本当にただの風評なのか ☆


 「風評被害」という言葉を盛んに耳にする。しかし、大量の放射性物質が漏出した原発事故を前に、「人体への影響はない」と幾ら政府とメディアが広報しても、にわかには信じられない。

 政府やメディアは福島原発から遠く離れた場所の生産物まで海外で売れ行きが落ちていると嘆き、外国を批判する。だが、立場が逆のときはどうだっただろう。中国製の餃子に毒物が混入されたと報じられたとき、多くの者が中国製品を敬遠した。BSEが発見されたとき、米国産の牛肉を禁輸した。諸外国が日本に風評被害を与えていると言うならば、日本も中国や米国に対して風評被害を与えたと言わなくてはならないのではなかろうか。

 福島と福岡が遠く離れていることを知る外国人は少ない。外国で原子炉から放射性物質が大量に漏れたと報じられれば、その国の製品を買うことを控えるだろう。たとえ事故を起こした原発と生産地が遠く離れているとしても。

 つまり問題の核心は「本当にただの風評なのか」という疑問に解答を与えることにある。ところが、政府とメディアは、次々と発覚する不都合な真実、被爆による健康被害のデータ不足、こういう現実を無視し、ひたすら安全を強調し、「風評被害を防ぐために最大限の努力をする」などと言っている。遣るべきことが間違っている。

 中国の安全基準が日本より緩く国内製品と比較して安全面でリスクが高かったのは事実だ。BSEの病原体であるプリオンを忌避した日本人の直感は決して間違っていない。同じように、食料品など日本製品に不安を感じる諸外国の人々の振舞いは決して不合理ではない。日本政府がまず安全であることを検証する必要がある。

 つまり、政府の責務は、「風評被害を防ぐ」ことではなく、「本当に危険はないのか(つまり本当にただの風評なのか)」を徹底的に調査検討することにある。もし、判断が付かないのであれば、予防原則(疑わしき者は罰す)が要請される。メディアも政府の発表を鵜呑みにするのではなく、独自に調査をすることが求められている。

 被害者の救済のためにも、喫緊の課題は真実を明らかにすることだ。「風評に過ぎない」とか言って取り繕うことではない。政府やメディアの関係者には、そのことを肝に銘じて頂きたい。


(H23/4/9記)


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