☆ インフルエンザ ☆


 今年もインフルエンザシーズンが到来した。高齢の両親と同居していることもあり毎年予防接種は欠かさない。8年前の正月にインフルエンザに感染し当時日本で認可されて間もないタミフルにご厄介になって以来、毎年欠かさず予防接種をしている。効果があるのか、ただ偶然なのかは定かではないが、それ以来インフルエンザになったことはないから効果はあると信じることにしている。しかし毎年感じることなのだが二つ疑問がある。

 インフルエンザの場合、毎年予防接種しないといけないのが煩わしい。一度の接種で長期あるいは一生有効なワクチンがある病気がたくさんあるのに、インフルエンザワクチンの効果は半年しか持たない。もしかしたら医療関係者が生涯に一度接種すれば二度とする必要がない、あるいは、インフルエンザワクチンなど全く効果がないことを隠しているのではないか、などと疑いたくなる。

 体内に病原菌が侵入すると免疫が出来て病原菌を駆除する。その記憶が体内に残る訳だが、インフルエンザの場合は急速に記憶が薄れる。それはインフルエンザがさほど身体に悪さをしないことを意味しているのかもしれない。パンデミックのとき、高齢者や幼児の感染などを除くとインフルエンザそのもので死亡したり長く後遺症に悩まされたりすることは少ない。健康な大人であれば1週間ほど安静にしていれば治療をしなくても回復する。だから記憶もすぐに薄れてしまうのだろう。だとしたらインフルエンザウィルスは実に巧みな生き残り戦略を取っていることになる。

 とは言え、普通の風邪症候群と比べて熱が高く一週間程度で治るとは言っても会社や学校を休まなくてはならず心身のダメージは小さくない。10年間とか長期に亘り効果が持続するワクチンができると嬉しい。

 インフルエンザの流行は春の訪れと共に一段落する。夏でもインフルエンザに罹る者はゼロではないらしいが、ほとんどいない。では一体その間インフルエンザウィルスはどこに潜んでいるのだろう。他の動物の体内に潜み頃合いを見計らっているのか、それとも感染しても発病しない保菌者がいるのか、あるいは水と栄養なしにも生きられるような構造体に変異して土壌や水圏あるいは建造物の中で眠っているのか、いずれにしろ、どこかにいることは間違いない。だから、その隠れ家を捜索して冬が来る前に一網打尽にできればインフルエンザに悩まされることはなくなる。ウィルスはごく微細だとは言え、最新の検査機器を使えば隠れ家を発見し、人間の側から先制攻撃を仕掛けてインフルエンザウィルスを撲滅することができるようにも思える。だが、そういう取り組みは聞いたことがない。

 しかし物は考えようだ。インフルエンザがなかったらどうなるだろう。クリスマスや年末年始もあり、人々は暴飲暴食で健康を害し、ときには諍いの原因を作る。インフルエンザはその歯止めになっている。どんな愛煙家でもインフルエンザで高い熱が出ればさすがに喫煙を控える。仕事のしすぎで心身の不調を訴える者が後を絶たないが、どんなに忙しくてもインフルエンザになれば誰か別の者が代わってくれる。インフルエンザは一見したところ、ただ人に害をもたらすだけの存在に思えるが、もしかしたら共存共栄の関係にあるのかもしれない。一生効果が持続するワクチンを開発するよりも、インフルエンザを撲滅するよりも、効果が半年のワクチンやその場凌ぎのタミフルしかない方が人間にとって都合が良いと考えることもできる。人はたくさんの願いを持ち、それが叶わないことで嘆き悲しむが、願いが叶わないことが幸福だということもある。毎年冬になるとインフルエンザが流行するのもそういう事例の一つなのではないだろうか。


(H22/10/24記)


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