☆ 年配者の居場所 ☆


 開店以来38年という歴史に幕を下ろし、3月14日に伊勢丹吉祥寺店が閉店した。その跡地に、10月15日、複合商業施設「コピス吉祥寺」がオープンしたので、早速覗いてみた。

 正直がっかりした。そこは10代と20代、精々30代前半までの若い男女が集うところで、年配者の居場所はない。伊勢丹跡地がどうなったか興味があり覗きに来たという風情の老夫婦と出会ったが、所在なさそうで気の毒だった。幸いB館6階と7階にジュンク堂が出店しており、そこで小1時間暇をつぶすことが出来たが、さもなければ5分で退散するところだった。ジュンク堂も吉祥寺では最大規模の書店になるが、池袋と新宿に比べると狭く書籍の点数も少ない。新宿や池袋に行く機会が多い者にとってはわざわざ出向く必要もない。おそらく筆者も当分行くことはあるまい。

 若者たちのアンケートでは、常に吉祥寺は暮らしたい街の上位に名を連ねる。閑静な住宅街と賑わいに満ちた駅前周辺さらに都民の憩いの場である井の頭公園が見事に調和している吉祥寺は、交通の便の良さと相俟って、暮らしやすい素晴らしい街であることに異論はない。しかし、年を取った者の僻みなのかもしれないが、年配者の居場所はどんどん減っている。

 少子高齢化が進む中、若者は大切にされ、「今、必要なものは若者の感性だ!」などと持ちあげられる。現代の日本は、至るところで大人たちが若者に媚を売っている。この新しい商業施設もそういう現代日本の風潮を象徴しているようで、どうも馴染めない。

 それが悪いことだと決めつけるつもりはない。これから長く生きて、日本の社会を支えていくのは、ここに集う若き男女たちなのだから、その趣味が尊重されるのは当然のことだと言ってもよい。

 だが本当にそれだけでよいのだろうか。昔はもっと年配者の意思が尊重されていた。若者たちにとって、それは面白いことではなかった。筆者も若い頃は同じ感覚を抱いていた。だが、今にして思えば、大人たちの振舞いから学ぶことは多く、それにより人格形成ができた。そして、それは街の中核を大人たちが占めて年配者の意思が尊重されていたからだ。

 年配者だけでは社会は成り立たない。しかし若者だけでも成り立たない。老若男女が揃って初めて良い街ができる。年配者は若者に歴史と体験を伝え、代わりに若者から希望と喜びが与えられる。若者は年配者から学びそして支えることで成長していく。こういう場がかつての吉祥寺にはあった。だが、それも今や廃れようとしている。残念なことだ。


(H22/10/16記)


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