☆ 現代人の3つのドグマ? ☆


 知人によると現代人には3つのドクマがある。「二酸化炭素排出量の増加で地球は温暖化している」、「ワクチン接種はインフルエンザ対策に有効だ」、「煙草は百害あって一利なし」、知人曰く、いずれも根拠はない。

 以前も述べたが、二酸化炭素の大気中濃度が増大していることは、南極の氷に閉じ込められた過去の大気成分の測定から証明されている。二酸化炭素濃度の増大が人為的なものとしか考えようがないことについても意見は一致している。だが温暖化が二酸化炭素濃度の増大によるものか、そもそも長期的にみて本当に温暖化しているのかどうかは議論の余地がある。

 パスツールの研究で有名な狂犬病に対するワクチンの有効性は明白で、発病すれば100%死に至る狂犬病を、噛まれた後に直ちにワクチン接種することで発病を阻止することができる。他にもワクチンが有効な病気は少なくない。しかし、インフルエンザウィルスに対する有効性は限定的だ。インフルエンザワクチン接種に懐疑的な専門家は、ワクチンは重症化率を若干下げる程度の効果しかなく、ワクチン接種の副作用でアナフィラキシーショックを起こす危険性に配慮するべきだと指摘する。実際、周囲にも、ワクチン接種したのに発病し高熱で苦しんだ者が少なくない。

 喫煙が肺がんなど各種成人病発症率と有意な相関関係があることは広く認められている。さらに煙草は、寝煙草による火災、街や部屋を汚す、など健康被害だけではなく多くの損害を社会にもたらす。しかし喫煙がストレス解消に効果があることは否定できない。確立された結論ではないがパーキンソン病の発病リスクを喫煙が有意に減らすという研究もある。また受動喫煙の害については憶測にすぎず、明確な結論は得られていないという主張もある。それゆえ「百害あって一利なし」は言い過ぎだろう。

 だからと言って、二酸化炭素排出量増大など大した問題ではない、ワクチン接種は無駄だ、禁煙を勧める必要はない、ということにはならない。二酸化炭素濃度の増大が地球環境に巨大な打撃を与える可能性があることは間違いなく、石油などの資源枯渇、それに伴う価格高騰など経済的な観点からも脱炭素化社会を目指すことは理に適っている。しかも石油など化石燃料の濫用による環境汚染は、窒素酸化物と硫黄酸化物による酸性雨など多岐に亘っている。インフルエンザワクチンの効果に不確実性があるとは言え、副作用と経済的負担というデメリットと、重症化率の軽減というメリットを比較すれば、メリットの方が大きいということに多くの専門家が同意している。特に致死率が高いとされる鳥インフルエンザに対してはワクチン接種のメリットは大きい。喫煙が成人病の重大なリスク要因であることを考えれば、嫌煙権運動がしばしば度を越していることは認めるにしても、禁煙、喫煙量を減らすよう努力することが望ましいことは言うまでもない。

 地球環境も人体も複雑系の典型で、少数の要因でその行末が決まる訳ではない。二酸化炭素、ワクチン、煙草に着目しただけでは、将来は予測できない。しかし、そのことが放置しても良いという結論を導くわけではない。この3つのドクマは、不確実な主張があたかも確実な科学的結論であるかのように誇張されている面があり、その点で人々のより深い理解を図る必要はあるが、全てが誤謬あるいは一儲けを企む資本の陰謀であるかのように論じるのは間違っている。不確実だが対策が不可欠というのが、この3つのドクマへの正しい対処法だ。但し、ドクマだと批判する知人の意見にも一理ある。ヒステリックで独断的な見解が科学的結論と混同されている場合が少なくないのは事実であり、正しい科学的知識の普及にも努める必要がある。


(H22/2/4記)


[ Back ]



Copyright(c) 2003 IDEA-MOO All Rights Reserved.