☆ 年の瀬、日本の未来を考える ☆


 「馬鹿の考え休むに似たり」、高校時代、将棋が滅法強い友人相手に長考しているといつもこう言われたものだが、馬鹿でも年の瀬を迎えると我が身の将来に思いが及ぶ。今更どうにもならないと再認識すると、では日本の未来は如何に?との思いが広がる。

 2009年最大の事件は何だったか。政権交代が一番に挙げられることは間違いない。もし今の日本が高度成長期にあったら、さぞかしこの政権交代は画期的な出来事として記録され、人々の心を鼓舞し、お祭り騒ぎが至るところで発生し社会を活性化したに違いない。ところが自民党長期政権が終焉し新しい夜明けだと言うのに、どうもその割には気勢が上がらない。景気低迷が響いているのは間違いないが、それだけではない。高度成長期ならば政権交代それだけで景気が上向いたことだろうが、今は違う。

 日本全体が自信喪失している。今年、「草食系男子(女子)」などという言葉が流行った。礼儀正しく優しく人畜無害だが、気概に欠け、恋愛に消極的で、別に結婚しなくとも子どもができなくとも出世できなくとも構わない。こういう雰囲気の男(女)を指すらしい。そして、これが必ずしも悪口ではなく、そういう男(女)を容認する、いや、それどころか積極的に肯定する気分が広がっている。ある意味、私のような人間には生きやすい時代になったと言える。「草食系男子」の説明を読むと実によく当てはまる。正に先駆け的存在だ。尤も生まれるのが半世紀早かった。今更、「草食系だ」などと言っても誰も相手にしない。「その歳で肉食だったら気持ち悪い」と蔑まれるのが落ちだ。

 いずれにしろ、GDPで中国に抜かれ、技術も学力も落ちる一方で、政権交代しても仕分けなど一部目玉はあったものの、世界最大の巨額財政赤字に加えて税収の急落で、自民党と同じ類の政策しか採用できない。ばら撒く先とばら撒く方法が変わっただけで、選挙目当てにお金で選挙民の歓心を買おうとする姿勢も自民党と変わらない。

 「百年に一度の危機」という言葉が昨年後半から社会に溢れた。しかし金融バブル崩壊は少なくとも日本にとってはそれ自身が直接の危機ではなく、ただ90年代前半から続いていた落日を加速したに過ぎない。そこを勘違いしたために、自民党は失敗し、民主党も同じ轍を踏もうとしている。

 日本はほぼ20年前から長期低落傾向に入っている。そこには経済成長の限界、社会的コストの増大、いびつな国土利用、少子高齢化、技術力と児童の学力低下など様々な要因が働いている。しかし、日本社会を支配する陰鬱な気分が大きな影響を与えていることを見逃すわけにはいかない。90年代初頭土地バブルが崩壊し日本経済が大打撃を受けたとき、間隙を縫うように中国、韓国など隣国は着実に力を付け飛躍の準備をしていた。さらにそれ加え欧米からはこぞって巻き返しを受けることになる。もはや日本は大国ではない。そういう思いが日本人の心にどんどん広がっていく。人々は未来を悲観し守りに入り冒険を避けるようになる。そこに来て社会保険庁の不祥事が決定的な打撃を与える。人々は貯蓄を優先して消費を控える。企業はひたすらコスト削減に走る。こうして社会全体が縮退していく。事実日本は大国ではない。麻生元首相は、そんなことはないと自著で反論したが、皮肉なことに、そう書いた本人の知的水準がすでに日本の衰退を物語っていた。

 「草食系男子(女子)」という言葉はそういう日本の現状を象徴する。別に、そのこと自体は悪いことではない。日本は昔から一度として大国であったことはない。大国だと思うと必ず失敗する。日露戦争で辛うじて(若干優勢の)引き分けに持ち込んだことで、日本は大国であり戦えば負けることはないという根拠のない自信を持ちアメリカと戦争をして大敗を喫した。そして80年代前半ジャパンアズナンバーワンなどと煽てられてその気になって外国の土地を買い漁り大損をすることになる。しかし、これは当然の帰結で大国ではないのに大国だと思って成功するはずがない。だから、草食系男子あるいは草食系女子と呼ばれるような者が増え、それが日本人の身の丈にあっていることを自覚することは寧ろ良いことなのだ。

 だが、大きな錯覚は身を滅ぼすとは言え、ある程度は錯覚がないと発展もない。グローバル資本主義という現代世界は、人々が同じ地に安住することを許さない。常に挑戦し変化し続けることが求められる。だとすると全員が草食では生き抜いていけない。2、3年の内にはマクロ経済の指標や企業の業績、株価などは回復するに違いない。だがそれは一時の息抜きに過ぎない。待望久しい政権交代が実現したのに気勢が上がらなかった2009年がそれを証明している。いま日本は全員草食化することで坂道を転げ落ちている。しかも底が見えない。しかし悲観することはない。現実がはっきりすることが改革そして反攻の切っ掛けになる。草食ばかりでは飽き足らず肉食もしたくなる時が必ず来る。いずれ2009年は下り坂の途中であったが上り坂の礎を築いた年と歴史書に記される日が遣ってくる。楽観的過ぎると言われるかもしれないが、「絶望は愚者の結論」という言葉もある。政治に期待できずとも、人々が前向きの精神を持ち続ける限り必ず活路は開ける。日本人はお上意識が強いと言われるが、必ずしもそうではない。政治は国民の気分の象徴という面が必ずある。だからこそ明るい気持ちで新年を迎えたい。


(H21/12/27記)


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