☆ 歳をとることの寂しさ ☆


 歳を取るのも悪いことばかりではない。電車で若者が席を譲ってくれるし、仕事が愚図でも余り文句を言われなくなる。そのうち、突然リストラされるかもしれないが。だが、どうしようもなく寂しいことがある。それはテレビや映画で、かつての憧れの美女たちの姿を観るときだ。

 子どもの頃、憧れの女性は八千草薫さんだった。故大川橋蔵氏主演「銭形平次」のおかみさん、お静さんを演じる八千草さんの美しいこと、美しいこと、テレビに釘付けになり、子ども心にこんな美しい人が人間であるはずがないと思ったほどだった。その他にも、三船敏郎演じる「宮本武蔵」のお通さん、特撮映画「ガス人間第一号」の踊りの師匠など、その美しさは溜息が出るほどで、八千草さんの美しさに魅了されて、肝心の映画の筋がどうだったか全く記憶にない。ただ、「ガス人間第一号」の主役三橋達也氏の八千草さん演じる踊りの師匠を評した台詞は今でも覚えている。「なんて言うか、この世のものとは思えない美しさなのだ」。正に、我が意を得たり。この言葉が嘘偽りなく当てはまるのは、後にも先にも、八千草薫さん以外にはあり得ない。だが、その八千草さんも今やそれ相応のお歳になられた。確かに今でも十分お美しいが、わが青春の至福の時代を思い出すと、正直言っていささか寂しい。失礼な言葉と知りながらも、出来ることならば、ラジオや声優に転じて頂いた方が、と思わずにはいられない。

 ドラマ「水戸黄門」に無くてはならない存在、水戸黄門演じる役者が変わっても、この役だけは他に演じる者はいないという人がいる。言うまでもない、由美かおるさん、その人だ。未だに、美しく、その抜群のスタイルの良さ、きびきびとした動きの躍動感、若い時と少しも変わりはない。だが顔や首筋あたりが大写しになったとき、やはり歳を感じさせる。TBSの水戸黄門も長い、そろそろ潮時ではないかという声も聞こえてくる。由美さんにとってもそろそろ転機なのかもしれない。

 その他の憧れた女優さんたち、たとえば、香川京子、檀ふみ、古手川祐子、秋吉久美子、森下愛子、高橋(関根)恵子、皆それぞれに、年相応になった。歳とともに綺麗になる人もいるが限界はある。演技力や人間としての魅力で勝っても、見た目の綺麗さでは、若い女優達に太刀打ちできない。

 彼女たちの姿を見かけるたびに思う。自分の頭が薄くなるのも無理はないと。人は時間には勝てない。寂しいことだが、それが現実だ。ただ彼女たちが、たとえ老いても、いつまでもどこかで元気でいてくれればと思う。そうすれば私も元気でいられるような気がする。


(H21/11/2記)


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