発熱は防御反応だと言う。インフルエンザウィルスなど多くの病原菌は体温が上がると増殖が抑制される。そこで病原菌に感染すると身体は発熱して病原菌の増殖を抑制することを試みる。それならば最初から体温が38度から39度くらいだったら良いではないかと友人に質問したら軽蔑の眼差しでこう諭された。「人間の生命活動に不可欠な有機高分子は36度台で最も活性が高まる。つまり人間の身体は36度台が最適であるようにできている。人間に感染する病原体はそういう人間の身体に適応して進化した。人間の身体が進化し有機高分子の構造が変わり38度や39度台が適温になることはありえる。だがそのときには病原菌も高い体温に適応するように進化するから、病原菌から逃れることはできない。たとえば鳥インフルエンザは体温が40度を超える鳥に感染するから、人間の体温が上がると鳥インフルエンザに感染しやすくなってしまう。」友人は化学の専門家でもないし、医学の専門家でもないから、その言葉は信用できない。とは言え、この説明は一応理に適っている。 生態系は多様な生物種が相互作用しながら維持されている。相互作用には敵対関係(捕食や寄生)もあれば共存共栄関係もある。なぜ共存共栄関係だけではなく敵対関係もあるのか。それは遥か昔、生物進化の過程で他の微生物を捕食する微生物が登場したときから始まった。現代の生態系には人間を含む動物など他の生物を捕食する生物が無数に存在するが、この原始の微生物がその起源だったと言えよう。捕食が始まるや否や、非捕食者を守るために捕食者の天敵が現れる。それはより強力な捕食者だったり、逆に寄生という形で内部から破壊する存在だったりする。こうして地球生態系にはどんどん敵対関係が広がっていった。人間に感染する病原体もその一つだ。高度な文明を発展させた人間には天敵がいないと言う人がいるが、実際は病原体という天敵がいて人間の数が増えすぎないように制御し生態系を(辛うじて)維持している。 地球の生態系は、植物や植物性プランクトン、化学合成独立栄養細菌が一次生産者となり、その基盤の上に多数の従属栄養生物が存在する。従属栄養生物の多くは捕食者として現れる。しかし、従属栄養生物にも、植物の受粉を助ける蜜蜂や、枯葉を分解して植物の栄養源を作り出す土壌の小動物のように、植物と共存共栄している生物種も多数存在する。独立栄養生物だけではなく従属栄養生物が存在するからと言って必ずそこに敵対関係が出現するとは限らない。 こう考えていくと、病原菌をただ殺すことを考えていたのでは、どんなに医学が進歩しても、私たちが病原菌から解放されることはないことが分かる。むしろ知的生命体を自負するならば、人間は発想の大転換を図り、全ての病原菌と平和共存できる世界を構想し実現する方法を考えるべきではないだろうか。人間が知的生命体と言えるかどうかは甚だ疑問だが。 了
|