☆ 厄介な「脳」 ☆


 見ず知らずの他人と会うのが苦手という人は多い。その中には社会不安障害という病である人も少なくないと聞く。

 人見知りをする子だった。中学生くらいから社交性が出てきたが、それでも初対面の者と話しをしたり、大人数の前で自己紹介したりするのは苦手だった。恥ずかしさを隠すためにわざとふざけて教師に怒られたことを思い出す。社会人になり他人との接触を避けることはできなくなり、最初は随分と戸惑った。しかし慣れてくると段々と見ず知らずの者と出会うのが苦にならなくなり、寧ろ出会いが楽しく感じるようになった。社会不安障害の子が就職を切っ掛けに(それと気が付かないうちに)病を克服したのかもしれない。

 ところが40過ぎてから精神的ストレスと体調不良を切っ掛けにパニック障害、さらにはそれが進行して鬱状態となり精神科医の世話になるようになってから、他人との接触が再び苦になるようになった。自己紹介をしたり、意見を述べたり、会議の進行役を務めることがやたらと精神的な重荷と感じるようになった。社会不安障害の再発だ。しかも子供時代は人見知りをしても仲良しの友達とは楽しく過ごすことができたが、社会人ともなると友人とばかり時を過ごすことはできない。最近は復調して他人との接触に問題を感じることは少なくなったが、それでもパニック障害発症以前のように他人と気楽に接することはできず、特に初対面は苦痛に感じる。

 経験のない者には心の持ちようの問題だと思えるかもしれない。認知療法やカウンセリングに効果があることを考えると尚更だ。でも、やはり究極的には「脳」の問題なのだと思う。MRIでも、血液検査でも、どんな検査をしても異常は見つからない。それでも、脳科学的な異常が何か存在している。それはセロトニンやアセチルコリンなど脳内の神経伝達物質の働きを制御する薬物で症状が改善することが証明している。

 「幸せはいつも自分の心が決める」は相田みつをの名言だが、残念ながら真実ではない。「幸せはいつも(心で支配することができない)脳が決める」が本当のところなのだ。しかし、それでも気弱な者が嘆くことはない。脳は身体の一部なのだから、身体を労わるように脳を労わること、脳に良い刺激を与え、良い飲食物を摂取することで明るく楽しい人生が送れるはずだ。それに心理療法がしばしば有効であるように心もまた無力ではなく、心を通じて脳を健全に保つこともできる。社会不安障害はそれを認識することで改善することができる。自分の脳に良い食物や刺激を発見するのは容易ではないから、手始めに心をリラックスさせ前向きにする方法を探してみよう。そして思い当たる節がある者は気楽に医師やカウンセラーに相談してみることだ。尤も気楽に他人に相談できないところが、この病に悩む者の辛いところなのだが。


(H21/3/28記)


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