☆ 消えた本のリサイクルショップ ☆

井出薫

 オンライン書店「アマゾン」で古書を探していたら販売価格1円という本が多数見つかった。送料は別だが1円で利益が出るのだろうか。オークションではないから勿論1円から値が上がることはない。送料は340円で安価なメール便を使っても利益はほとんど出ない。手間を考えれば絶対にペイしないはずだ。なぜこんなことをするのだろう。

 手数料をもらって引き取ったから1円でもペイするということは考えられる。だが何も1円にしなくてもよいだろう。どんな本でもよほど汚れていなければ100円くらいの価値はある。本を購入する者は本を漬物石代わりにするのではなく、本が欲しいから購入する。100円でも高いとは思わないはずだ。しかも送料込みだと1円でも341円、100円でも440円とさほどの違いはない。

 どうやら理由が分かった。1円で本を販売しているショップのホームページを調べたところ、一部の店舗を閉店すると書いてある。残す店舗に本を輸送するには費用が掛かる。1円でも引き取り手があれば本の輸送費が削減でき経営上有利になる。

 一時期、雨後の筍の如く本のリサイクルショップが続出した。だが、どうやらブックオフの一人勝ちで終わり、他の店の多くは経営に行き詰っているらしい。そう言えば、もう3、4年前のことになるが、近所でも閉店した本のリサイクルショップがあった。

 本は最もリサイクル、正確に言えばリユースしやすい商品だ。再利用のためには店舗があればよく、他には費用はほとんど掛からない。社会全体から見ても、良質な本はたとえ少々汚れても価値を失うことはないからリユースの意義は大きい。しかしながら、やはりそこは商売となると楽ではないわけだ。小さなショップでは本が大量に集まらず、客が寄り付かない。そうなると、ごくありふれた古書店になってしまう。だが神保町のように歴史ある古書店街ならいざ知らず、孤立したところに古書店があっても大学や研究所などと提携しない限り商売は成り立たない。こうして本のリサイクルショップが流行した時代は終焉した。

 一人勝ちになったブックオフも経営は楽ではないらしい。読み終わった本はほとんどがゴミとなりリユースされない。

 資源循環型社会の実現が叫ばれて久しい。しかし最も循環しやすいはずの本ですらこの有様だ。資源循環型社会を実現することが如何に難しいかがよく分かる。ただ良い教訓がある。本がリユースされない最大の理由は詰らない本が多いことにある。出版されて1年も経つと1円でも嵩張るからと言われて引き取り手がなくなる類の本が如何に多いことか。本に限らず内容が充実し長く使える物を作りだすこと、これが資源循環型社会実現に一番大切だということが分かる。



(H20/11/7記)


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