☆ 病気の意味 ☆

井出薫

 また風邪を引いた。熱はさほどないが喉が猛烈に痛く咳が出て寝ることができない。2年前こういう状態を放置していたら結果的に10日間近く寝込むことになったので、すぐに診察に行き薬をもらう。

 どうして、こう身体が弱いのだろう。もう少し丈夫であれば、立派な仕事をして世の中に貢献できたと言うほど図々しくはないが、世界を旅して見聞を広め友人を増やすことができたと思うと残念だ。尤も丈夫だったら悪いことをして他人に害を与えるので神様が病弱にしてくれたのかもしれない。

 それにしても、同じ環境にいて、同じような行動をしているのに、風邪をひいたり下痢や便秘をしたりすぐに体調を崩す者がいる一方で、医者など行ったことがないと言う者がいるのは不思議だ。どこがそんなに違うのだろうか。「よく似てはいるが個人によって遺伝子は全て異なっており、育った環境も違うから当たり前だ。動物だって丈夫な者と弱い者がいる。」皆こう答えるだろう。だが不思議なことは弱い者でもちゃんと生きていることだ。ちゃんと生きているどころか、自分は病弱だと愚痴をこぼしながら90過ぎまで元気に生きている人だっている。因みに、その人は今では同級生が皆先に逝ってしまったと嘆いている。

 人間は文明を作り弱い者でも生きていけるようにしたというのが普通の答えだろう。だが動物の世界でも弱い者がすぐに死んでしまうとは限らない。寧ろ丈夫すぎる者は無謀な行動に出てあっけなく死んでしまうことが少なくないと聞く。

 病気は生きていることの証であり、病気にならない者などいない。体調不良になったときにそれが病気として認知され節制することで体力が回復する。そういう過程を繰り返しながら生き物はその生命を維持する。一度も医者に行ったことがないと言う者が突然重い病気になったり若くして亡くなったりすることがあるが、それは多分体調不良のシグナルを(病気として)感知することができなかったためだと推測される。こういうことは身体の病気だけではなく心の病気にも当てはまる。心の不調を早めに病と感じ取り休養すれば、それ以上悪化することはなく自然に快癒する。

 こうして考えると病気は健康を維持するための最良の薬で悪いことではないと気が付き、心が楽になる。とは言え、筆者の場合、余りにも病気になることが多すぎる気がする。心身に欠陥があるのか、体調不良に対する感度が高すぎるのか、それともただの怠け者なのか、やはり心身ともに改善が必要らしい。



(H20/9/29記)


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