☆ 水の神秘 ☆


 人間の身体の60%から70%は水だと言われている。クラゲなどは90%以上が水で、干上がるとほとんど跡形もなくなる。水くらい身近でありふれた物質はない。

 ところがこの最もありふれた水がなかなか面白い。最近NHKの番組で条件次第でお湯の方が冷たい水より速く凍るという実験が紹介され、その真偽を巡って専門家が大真面目に論戦を交えている。水はとても不思議な性質を持つ。

 ほとんどの物質は液体から固体になると体積が減少する。ところが氷が水に浮くことから分かるとおり、水は固体になると体積が増える。水素結合の影響で固体になると蜂の巣のような構造となり空洞が生じ体積が増えるそうだが、実に奇妙な性質だ。水は他にも非常に高い比熱容量、高い比誘電率、反磁性など奇妙な性質に満ちている。

 しかし、だからこそ水は生命という神秘に満ちた存在を生み出すことになった。水の神秘と生命の神秘は繋がっている。ところで生命の神秘の中でも心ほど神秘的なものは他にない。心の神秘性はどこから生じているのだろう。水に精霊が棲み、それが生命に宿り心として現象した、などと言うと皆から笑われる。だが、そういう物語は昔からたくさんあるし、科学が発達した現代でも似たような物語をよく耳にする。人は水という存在にいつも魅了されてきた。生命にとって水は単なるH2Oの集合体ではなく、心と自然が一体になるかけがえのない接点だ。水を飲むことは渇きを癒すだけではなく、魂を取り込むことなのかもしれない。

 夏になると水が恋しくなる。燦然と輝く太陽は生命に不可欠の存在だが、水があって初めて生命を育むことができる。水のない水星や金星は生命にとっては不毛の地だ。夏になるとビールが格別に美味くなるが、たまにはビールではなく水で乾杯しながら、生命と心と水の神秘に思いを寄せ、水に感謝の気持ちを捧げるのも悪くはない。きっと心が軽やかになる。


(H20/8/4記)


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