☆ それでも科学は進歩している ☆


 電子回路素子といえば、レジスター(R)、キャパシター(C)、インダクター(L)の三つに限ると信じていたが違った。ネイチャー5月1日号に掲載された論文が第4の素子メムリスター(メモリ付きの非線形抵抗素子)の存在を確認したと報告している。30年前の学生時代専門分野だったので正直驚いた。当時は第4の素子など想像もできなかった。

 40年前の筆者の子供時代は科学万能主義の最盛期だった。21世紀には月や海底に都市が築かれ多くの人が定住するようになる、核融合発電が実用化され資源問題は永遠に解消される、驚異的な生産性を持つ穀物が発明され食糧不足に悩む恐れはなくなる、自動翻訳機で会話ができるようになり外国語教師は失業する、癌の特効薬が発明される、超音速ジェット機が実用化されアメリカまで6時間で行くことができる、地震予知が可能となり震災を防ぐことができるようになる、こういう今では夢物語、原理的には可能でも実用化は遥か先になることがすぐにも実現できるように思われていた。SFと現実世界に境界がない時代だったとも言えよう。

 パソコン、インターネット、小型で高性能の携帯電話など当時は想像できなかった新技術が登場し普及したとは言え、全体的に言えば40年前に期待したほど科学技術は進歩していない。その一方で、公害、大気・河川・海洋の汚染、種の絶滅、オゾンホール、環境ホルモン、地球温暖化などで科学技術の発展がもたらす負の側面が白日の下に晒され、資源枯渇、環境保全、人口爆発に伴う食糧不足の解消など地球規模の課題解決には科学技術より、政治経済的公正の実現と世界の人々の協力がより重要であることがはっきりした。科学技術万能主義が間違いであることは否定しようもない。

 それでも第4の素子の発見は今でも科学技術が着実に進歩していることを示している。第4の素子は新しい電子回路の発明や未解決の電磁現象の解明に繋がるだろう。科学技術を過信してはいけないが、一方的に非難したり拒否したりすることも間違っている。

 因みに論文には第4の素子は40年前に予言されていたと書いてある。40年前筆者は中学生、第4の素子など想像もできなかったと最初に書いたが、如何に筆者が不勉強で無能な学生だったか今更ながらに思い知らされた。負け惜しみになるが、だからこそ科学は侮れないのだ、ということにしておこう。


(H20/5/8記)


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