☆ 桜と将棋 ☆


 井の頭公園から神田川沿いを久我山駅まで桜を見物しながら散歩する。今年は梅の開花は遅れたが桜は例年並み、4日前に吉野梅郷に観梅に行き、すぐに桜見物。古くて重たいデジカメも大活躍だ。

 久我山駅の少し手前にある川沿いの小さな公園で、どっしりとした木製の机の上に将棋盤を並べて8人の男たちが対局をしている。町の名人戦だろうか。最近は身の回りに手ごろな対局相手がいないこともあって、我が家の将棋盤も出番がなくて手持無沙汰にしているが、以前は結構将棋を指した。腕前はカメラと同じで御愛嬌というところだが、それでも学生時代はアマチュア初段の免状を将棋連盟から頂いたことがある。尤も残念ながら免状をなくしたために見栄を張るなと信用されない。

 暫く対局を眺める。実力は私と同程度かやや下と見定める。そうなるとついつい口を出したくなる。だが見ず知らずの人間に口出しされては面白くなかろう。自分が逆の立場ならば黙っていろと叱る。特に形勢不利のときには余計に頭にくる。口に出すのを我慢して、それは悪手だと心の中でつぶやく。だが、それが表情に現れたのだろう、形勢有利の側がこちらの顔を見てにやりとする。形勢不利の側が見ていなかったのが救いだ。見られていたら叱られていたところだ。腹が空いてきたこともあり、その場を去り昼食にいく。しかし勝負の行方が気になり、持ち帰り用の寿司を買い対局場の傍のベンチに陣取り、それとなく勝負の行方を見守る。どうも形勢が逆転したようだ。さきほどにやりとした男が厳しい顔をして盛んに首を振って苛立ちを表現している。寿司を急いで食べ、桜を見る振りをして対局を覗きこむ。すでに大勢は決している。先ほどまでは有利だったのに余程大きな悪手を指したのだろう。

 その場を立ち去り、さらに川沿いを永福町に向かって散歩する。やはり東側は日当たりが良いからか、井の頭公園では8分咲きだった桜の花が足の運びに合わせて満開になっていく。

 こんなのどかな時が永遠に続けばと思うが、日は暮れていき、お腹は空いてくる。8人の将棋指しは今頃どうしているだろうと思いながら、現実に戻り帰宅する。

 桜と将棋、どこか似ている。ぱっと咲いて、ぱっと散っていく。そんなことを言うと先ほどの男は怒るだろうが、勝ち負けはときの運、次がある。今度はしっかり応援する、邪魔だと叱られるだろうが。


(H20/3/28記)


[ Back ]



Copyright(c) 2003 IDEA-MOO All Rights Reserved.