アイスランドの沖で引き揚げられた二枚貝を調べたら年齢が何と405歳、動物では最長記録だと29日の新聞で報じられていた。 ところが年齢を調べるために肉を剥がしたので貝は死んでしまったという。人間とは何と無慈悲で愚かな生き物なのだろう。この話しを聞いて荘子の「渾沌七竅に死す」を思い出した。 南海の帝と北海の帝が、中央の帝「渾沌」の地で出会う。渾沌は二人を大いにもてなし、感激した二人は渾沌に何かお礼をしなくてはと相談する。渾沌には目、耳、鼻、口つまり7つの穴がない。そこで二人はお礼に渾沌に穴を開けることにする。1日1箇所、そして7日目には7つの穴が開いた。だがそのとき渾沌は死んでいた。 研究者達が貝にしたことはこれと同じではないだろうか。研究は科学の進歩に役立つ。それに一度陸に引き揚げた貝を元の場所に戻しても長くは生きられまい。 だが、もし人間よりも遥かに優れた知能を持った生命体が地球に遣ってきたら、人間がこの貝と同じような運命に会うかもしれない。そして、それに文句を言う資格は人間にはない。超知能の宇宙人にとっては人間も貝も等しく地球生態系の種の一つでしかない。 科学が発達して、人間は環境汚染で苦しむことになった。後戻りはできないから、科学がもたらした負の遺産は科学の力で何とかするしかない。だが人間の力は僅かで、人間が生み出した科学の力もたかが知れている。科学の恩恵に与り呑気に暮らしている筆者に科学を否定することなど到底できたものではないが、何か間違っているような気がしてならない。 人間は文明を築き自然から離れて生きてきた。だが文明は自然を収奪することなしには成り立たない。環境汚染が進んで、人は自然に恩返しをしなくてはならないと気がついた。だが科学の力に頼るばかりでは、渾沌を殺してしまうことになる。いや、その前にこの哀れな貝のように突然理由もなく殺されてしまうかもしれないのだ。 了
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