☆ 何様だ ☆


 病院の受付で待っていると近頃は「xxさま」と呼ばれる。以前は「xxさん」と呼ばれていたように思うのだが、建物が新しく奇麗になったのにあわせて言葉遣いも丁寧にしたのだろうか。だが、どうもしっくりこない。「さま」は尊敬を表す言葉だが、どこをとっても尊敬されるに値しない筆者のような人間は却って馬鹿にされているような気がしてならない。

 遥か昔のことになるが、NTTが電電公社だったころ、お金を払っている利用者を「加入者」と呼んでいた。民間出身の真藤氏が総裁(後に社長)に就任するや、お客様を「加入者」と呼ぶのは電電公社のお役所体質、お客さまを見下ろす姿勢の現われだと叱責して呼び方を「お客さま」に変えさせた。これはNTTの体質改善に一定の効果があったと思う。

 同じように、患者やその家族を「さま」と呼ぶことで、自分が患者よりも偉いと錯覚しがちな医療関係者の態度を改めるのに役立つとでも考えているのだろうか。だが「さま」を使ってもお医者様や看護士さんの態度が変わったとは感じない。親切で優しい医師は昔も今も変わらずそうだし、そうでない医師はそうでないままだ。

 病院だけではない。最近はやたらと「さま」を使う。メールを見ると「xx課長様」などと役職の後にまで「さま」を付けている人が目に付く。「さま」を使うのならば「課長xx様」と書くべきだが、それはさておき、なぜ「さま」を使いたがるのだろう。

 立派な人が増えて、「さま」の相対的な価値が落ちたのだろうか。そんなことはない。「さま」が増えたのは、人々が他人との接触を厭うようになったからだ。尊敬語を使うことで他人との接触を拒否して自分の世界に閉じ篭ろうとしている。

 「君」、「さん」で十分だ。呼び捨てだって親愛の情があれば一向に構わない。私たちが他人を尊重しているかどうかは呼ぶ方では決まらない。「さま」を使うとき、人は余所余所しい感じを隠せない。「さん」や「君」の方が愛情を持って接している感じが醸しだされる。人々が仲良く暮らすためにも、「さま」という言葉を無闇に使う習慣は改めた方がよい。


(H19/5/11記)


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