最強の将棋ソフト「ボナンザ」と大山康晴二世と呼ばれる若き天才渡辺竜王の対局で竜王が辛勝した。途中ではボナンザが優勢という局面もあったと言われている。 将棋ソフトが近年急速に強くなっていることは知っていたが、プロのトップとほぼ互角の対局ができるところまで進化しているとは思いもよらなかった。強気と毒舌で鳴らす竜王が「予想以上に強い、何度遣っても勝てる相手ではない」と感想を述べているのだから大したものだ。 だが何よりも驚いたのは開発者の保木氏がほとんど将棋を知らないということだ。将棋の素人である保木氏は、将棋の指し方そのものをプログラミングするのではなく、膨大な棋譜を読み込ませてソフトウエア自らが指し方を改良するという手法を取っている。だとするとボナンザは今回の敗戦からまた学ぶことになり益々強くなるだろう。やがてプロ棋士が敗れる日が来るのは確実だ。 パソコンで動く程度のソフトで学習ができるということが凄い。それも単なる算数の計算ではない。将棋や囲碁の対局のように膨大な指し手の組み合わせが存在するゲームでは単純な計算では勝ちを見つけることはできず、人間が直観とか洞察力とか呼んでいる能力が不可欠になる。人間はこれまで計算の速度ではコンピュータに劣っても、これらの能力では負けることはないと自負してきた。だがこれはどうやら根拠のない自信に過ぎなかったようだ。 確かに今のところボナンザができるのは将棋だけだ。だがボナンザの学習機能、学習を通じて獲得する直観力や洞察力は汎用性がある。つまりパソコン程度の機械が人間に匹敵する知性を持ちうることを今回の対局が証明したのだ。 人々は、コンピュータは人間の発明品であり道具に過ぎず、どんなに高速計算が出来ても人間の知性を凌ぐことはないと高を括っていた。だが、そのプライドが打ち砕かれる日はさほど遠くなさそうだ。 了
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