☆ 痒い! ☆


 痒みは不思議な感覚だ。何の役に立っているのか分からない。

 痛みは、体調不良、怪我、敵の攻撃などを知らせて生命維持に役立っている。痛いとき、人はじっとしていたり、痛むところを庇ったりして、悪化を防ぎ回復を待つ。痛みがないと健康を保つことは難しいだろう。

 痒みも体調不良や害虫に襲われたことを知らせるが、原因不明の痒みも多い。学生の頃、身体中が痒くなるという症状が頻発し、心配になり医者に診察に行ったことがあるが、医者も「原因は分かりません。よくあることで心配しなくて大丈夫です。」としか答えられなかった。健康そのものとは言い難いが、それから30年以上生きているのだから医者の見立ては当たっていたわけで、結局痒みの原因は不明のままだ。未だに年がら年中、身体が痒いから体質なのだろう。意味不明の痒みは多い。

 痒いと掻くが、これがたいていは役立たない。役立たないどころか悪化させる。痒いところを掻くと皮膚が剥がれて化膿しやすくなる。しかも掻くと一時的に治まるが、暫くすると余計痒くなり、痒い範囲が広がることが多く、掻いては駄目だと医者に叱られる。痒いと掻くという自然の行為が健康増進に役立たず却って悪化させている。これもまた不思議だ。

 何を以って繁栄と言うべきか微妙なところがあるが、人類は地上で最も繁栄している動物と言ってよいだろう。だとすると、ダーウィンの進化論に従えば、人類は進化の過程で、自然淘汰により優れた性質を獲得し、無駄な性質は排除してきたはずだ。だが、痒みはどう考えても有益な感覚とは思えない。寧ろ百害あって一利なしではないか。

 痒い!こんなことを考えても、この痒みは静まらない。痒みは、掻いても、書いても、治らない。



(H19/1/6記)


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