☆ 迷惑メールは防げないのか? ☆


 最近、毎日100通以上の迷惑メールが届く。削除する手間などたかがしれているが、大切なメールを間違って削除してしまうことがあるから困ってしまう。

 これだけの迷惑メールが蔓延する原因の一つは、何通メールを出しても追加料金が徴収されないことだ。ただならば何でも遣ることができる。しかも通信の秘密という大原則があるから誰もメールの内容をチェックできない。

 防止策として、メールに1通1宛先ごとに幾らという従量課金制を導入することが考えられる。1通1宛先の料金をたとえば0.1円程度に設定すれば普通の利用者には大した負担にはならない。1日100通・宛先にメールを出す人など滅多にいないだろう。100通・宛先出してところで一日10円、一月で300円程度の負担で済む。事前指定したアドレス10箇所へのメール送信は無料にすれば、さらに負担を小さくなる。また頻繁に多人数に同じ情報を送る必要がある人はプロバイダなどの同報サービスを利用すればよい。迷惑メールの送信者はおそらく1日に数万通・宛先のメールを送っているだろうから、0.1円でも有料になれば影響は小さくない。

 だが残念ながら有料化は難しい。インターネットは、メールの確実な配達を保証することができない。たとえば、メールアドレスの名前の部分(@マークの左側)を間違えると、通常「UserUnknown」という警告メッセージが受信メールサーバから発信者に返送されるが、通常、このメッセージは送信メールサーバを経由しないので、課金するプロバイダ側で不達を把握することはできない。また「UserUnknown」などの警告メッセージを返送しない受信サーバもあり、そのときはお手上げだ。。つまりメールに課金すると、不達のメールにまで課金されることになる。宛先を間違えた場合は自己責任だから課金されても仕方ないと言えるが、正しいアドレスで送信しても相手に届かないこともある。たとえば、受信メールサーバの容量不足で受信拒否された場合も課金されることになる。

 そもそも、IPというプロトコルは、プロバイダが責任を持つことができる範囲では、メールに限らず、パケットがエンドツーエンドで確実に送受信されることを保証する仕組みがない。伝送経路にあるルータやスイッチが処理能力を超えた状態になっていたり、バッファが満杯になっていたりすると、パケットはそこで廃棄されてしまう。通常廃棄したことは送信側に通知されることになっているが、処理能力を超えた負荷が掛かっているときはそれすらできないし、そもそもパケット廃棄を通知しない設定になっているルータやスイッチもたくさんある。

 要するに、メールに課金しようとすると、利用者の責任によらない不達メールにも課金されることが避けられない。これでは納得できない者が多いだろう。

 さらに、利用者自身がメールサーバを持っていると課金できない。ほとんどの大企業は独自のメールサーバを持っているから、課金されるのは個人や中小企業に限定されてしまう。これでは不公平だ。

 しかも、迷惑メールを送りつける者は、自前のメールサーバや、セキュリティが甘く無制限で送信メールを受け付ける個人のメールサーバなどを利用するから、結局課金を免れてしまう可能性が高い。たとえ課金され料金を徴収されても、一人の客を捕まえさえすれば数十万円という世界なら、月々数万円のメール料金など屁でもないかもしれない。

 プロバイダ側の都合やIP特有の制約もある。これまでインターネットは、ダイアルアップ接続では電話網が従量制であることもあり従量課金を取り入れてきたが、IP側では従量課金を使用しておらず、そのための設備もない。今更導入するには資金も時間も掛かる。しかも競争が激しい状況下、業界全体で有料化するのであればよいが、自分のところだけ有料化したら利用者が逃げると二の足を踏むプロバイダが多いだろう。課金するにしても、ネットワークやサーバに故障が起きると、利用者は何度も同じパケットを送信することになるので料金が高くなってしまう。これでは利用者はとうてい納得いかない。元々インターネットは従量課金には不向きなのだ。

 結局メールの有料化は困難だということになる。だから、プロバイダは、ポート25(送信メールを遣り取りするプロトコルSMTPが使うTCP/UDPのポート番号)のブロッキングを実施して迷惑メール対策をしているが、実施していないプロバイダも依然として数多く、効果のほどは今ひとつだ。

 そうなると迷惑メールを個人に配達する前に、プロバイダ側で迷惑メールかどうかの判定をして削除するというアイデアが生まれる。だが、これも、間違って大切なメールを削除されてしまう危険性があるので、筆者がそうなのだが、使う気にはならないという者も少なくない。しかも迷惑メールかどうかの判定能力が低いのが実情だ。

 というような塩梅で、便利になると何かと不都合なことも増えてくると、今のところ諦め我慢するしかない。だが、それにしても、迷惑メール、ウィルスと、本当に世の中には悪いことをする者が多いと実感する。インターネット普及の最大の功績は、人間を信頼してはいけないということを人々に身を以て教えたことかもしれない。


(H18/12/5記)


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