地球の大気に酸素が豊富に存在するのは、酸素発生型の光合成をする微生物が地球に誕生したお陰だ。それまでの地球の大気には酸素は存在しなかった。もし酸素発生型光合成生物が地球の歴史に登場しなかったら、地球の大気には酸素が存在せず、大量のエネルギーを消費する人類を含めた大型動物が地球に登場することはなかった。 しかし酸素発生型光合成生物が誕生してすぐに大気中の酸素が増えたのではなく、酸素が実際に増加するまでに3億年もの年月がかかっている。どうしてなのだろう。 ネイチャー10月12日号に掲載されている論文によると、酸素発生型光合成生物の存在と両立する地球大気の状態は二つあり、酸素が豊富に存在する状態だけではなく、酸素濃度が極めて低い状態も存在しうる。その結果、酸素発生型光合成生物が登場してから長い期間、酸素が微量しか存在しない状態が続いたと考えられる。 酸素発生型の光合成生物が生息していたにも拘わらず酸素濃度が低かった地球が、酸素濃度が高い状態に遷移した理由は分かっていない。おそらく、それは必然的な変化だったのではなく、何らかの偶然的な要因によるものだったと推測される。 哺乳類は恐竜が絶滅するまでは地球上で極めて地味な存在でしかなかった。最新技術で武装した現代の人類ならば巨大な恐竜を倒すことができるだろうが、原始時代の人類では恐竜と対決することは不可能で、もし恐竜時代に人類が誕生してもとても生息域を広げることはできなかっただろう。ところが恐竜は約6500万年前に忽然とその姿を消してしまう。原因は特定されたわけではないが、地質学的な研究から、巨大隕石の衝突か火山の噴火の影響で滅んだというのが有力な説になっている。いずれにしろ、生物進化の必然で恐竜が滅び哺乳類の時代が到来し人類が誕生したのではなく、偶発的な事件で人類繁栄の基礎が築かれたと考えて良さそうだ。 人類の登場と繁栄は、生物進化の必然だったわけではなく、偶然の積み重ねで生じた偶発的な出来事に過ぎない。他の生物たちにとって人類の誕生が幸いだったのか災いだったのかは定かではないが−少なくとも今までのところは後者だろう−、私たちはこの世に生まれたことを一部の悲観論者や厭世主義者を除けば総じて喜ばしい出来事だったと感じている。だとすれば、私たち人間は、地球に訪れた数々の幸運に感謝して、他の生物にそのお返しをしなくてはならないだろう。 了
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