☆ さようなら丹波さん ☆


 俳優の丹波哲郎さんが9月24日お亡くなりになった。享年84歳。心から冥福をお祈りしたい。

 丹波さんは本当に個性溢れる素晴らしい俳優だった。「砂の器」の刑事、「二百三高地」の児玉源太郎、「三匹の侍」の素浪人、テレビドラマ「Gメン’75」の警視など、その姿はいまでも脳裏に鮮明に焼き付いている。正義の味方でも、敵役でも、その存在感は群を抜いていた。

 丹波さんの演技は上手いとは言えなかったかもしれない。所謂くさい芝居の典型だったと言う人もいる。しかし、丹波さんの魅力は、そういうくさい芝居が実によく似合っていたことだ。「Gメン’75」でGメンのリーダー黒木警視(後に警視正、数年前の単発ドラマでは何と警察庁長官まで登りつめていた)を演じる丹波さんは、何かというと上目遣いに宙を眺め、渋い声で「そうとは言えんかもしれんぞ」みたいな台詞を発していた。−台詞を覚えるのが苦手な丹波さんは近くに台詞を書いた紙を置かせていたという噂話しがある。上目遣いにそれを読んでいたのかもしれない。−それが実にくさい、シリアスな場面なのに思わず笑ってしまうほどなのだ。だが、それが全く不自然でないから不思議だった。芝居がかっているのが却って自然にみえてしまう。霊界案内人の超能力だったのだろうか。

 トーク番組やバラエティでテレビに顔を見せる丹波さんは、いつでも芝居がかった話し方、振る舞いを見せていたが、それが全然嫌味でなかった。その大袈裟な立ち居振る舞いは、根っから明るい人なのだなと思わせる大俳優らしくない気さくさで、観る者を魅了した。映画やテレビドラマの丹波さんは芝居をしていると言うよりも、地をそのままに出していただけなのかもしれない。いや、そういう風に自分を演出することができるほどの天才役者だったのだろう。いずれにしろ天性の俳優だったことに間違いはない。

 木村拓哉氏を初めとするSMAPの面々など最近の若い俳優はみな二枚目で演技も実に上手い。昔のように大根役者と言われるような人は見掛けなくなった。丹波さんのような独特な台詞回しを耳にすることもない。だが、どうも皆揃って個性がなく、今ひとつ画面にのめり込んでいくことができない。世代が違う所為かと思っていたら、若い人たちも同じような感想を述べている。多分器用すぎて感動を与えることができないのだろう。超イケ面の大人気アイドルだが、魂を揺さぶる俳優ではないのだ。

 三船敏郎、市川雷蔵、勝新太郎、萬屋錦之介、演技が本当に上手いのかどうか分からないが、観ている者の魂を鷲づかみにするような強烈な個性を放った俳優がどんどんこの世を去っていく。丹波さんはその最後の一人だったのではないか。本当に寂しいことだ。−仲代達也氏や高倉健氏が残っているが、両氏とも筆者にはオーソドックスな二枚目俳優という印象が強い。−

 さようなら丹波さん。極楽浄土では、警察庁長官からさらに一段上がって総理大臣になってください。



(H18/9/26記)


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