☆ 感動がないなあ ☆


 日本代表がグループリーグで敗退した。ジーコ監督の采配やFWの決定力不足が批判されているが、日本の現在の実力からすれば、やむを得ない結果だろう。「勝てる、勝てる」とマスコミが煽り立てる中、セルジオ越後氏だけが「日本は4チームの中で一番弱い。そのことを自覚して戦わなくてはベスト16には進出できない」とはっきりと語っていたが、その予想通り日本は最下位に終わった。要するに、実力どおりの結果が出たというだけのことだ。1−0の場面で守るか攻めるか戦術が徹底していなかった、柳沢を使うのは間違いだったなどと言っても、すべて結果論に過ぎない。監督や選手を責めるのは酷だ。彼らが自分達の力を過信して敗れたのならば責められても仕方ないが、監督も選手も日本の力は分かっていて懸命にプレイをしていた。ファンならば、中田英が披露した世界レベルのプレイ、川口のファインセーブ、ブラジルから先制点を奪った三都主と玉田の鮮やかな連係プレイ、これらを素直に讃えるべきだろう。

 だが、今大会の日本代表には、もう一つ感動がなかったのは否めない。中田英と川口を除くと、「最高の場所で最高のプレイをして何が何でも勝とう」、「勝たなくてはここに来た意味がない」というファイティングスピリッツを代表チームから感じ取ることができなかったからだ。「日本選手はゴール前20メートルになると消える」と海外メディアから酷評されたフォワードの消極的なプレイ、ゴールへの執念の希薄さ、川口がファインセーブを連発しなくて防げないほどあっさりと相手にシュートコースを与えてしまうディフェンダーの淡白な守備、そこには戦う者の意志、意地が欠けているようにみえた。

 現在の日本代表は、オリンピックでブラジルを破った選手たちを中軸としたチームで、黄金世代とも呼ばれている。確かに技術は相当に高いものがあろう。しかし、たとえ技術的にいまより劣っていたとしても、ラモス、カズ、ゴン中山、井原、秋田などから感じるとることができた戦う気概が、いまの選手たちには感じられない。試合後のインタビューを聞いていても、単なる評論家のようなコメントだけしか返ってこない、などと意地悪な感想を持ったのは筆者だけだろうか。

 サッカーだけではない。野球でも感動がなくなった。先発、中継ぎ、抑えという役割分担が確立した所為だろうか、投手交代を告げられて全身で悔しがる先発投手の姿を見ることがめっきり少なくなった。昔は交代させられた投手はベンチでグローブを投げ付けて悔しさを全身で表わしていたものだったが、今はそんなことはしない。すべてがシナリオどおり。これでは感動がない。

 大分前のことになるが、松井とペタジーニがホームラン王争いをしたとき、上原がペタジーニ敬遠を指示されて天を仰いで泣いたことがある。スワローズファンの筆者でもあの姿には感動を覚えた。ベンチの指示に従い当然の如く松井を敬遠するスワローズの投手と較べて上原は何と美しかったことか。あれがプロフェショナル、戦う者の真の姿なのではないか。今のプロ野球には、こういう姿を見ることができない。

 ラグビーもそうだ。プロ化の流れの中で日本は立ち遅れて、もはや強豪国とは試合にもならない。だが、それでも、選手が真剣にプレイして、最後の最後まで懸命にタックルにいっていれば、こちらも最後まで応援する気になる。100−0で負けていようと最後にワントライ返せば大いに喝采もしよう。だが、いまの日本代表選手には骨惜しみをせずにタックルにいく者がほとんどいない。明大と神戸製鋼で大活躍した元木やサントリーに所属していた大久保直などは、負けが決まった試合でも、最後の最後まで怪力の大男を前に怯むことなく、タックルにいったものだった。いや、昔のラグビーの選手はみな自分達の仕事はタックルすることだと自覚していた。いくら上手にステップが切れても、タックルできない選手はラグビー選手の名に値しない、選手も観客もそう思っていた。だが今は違う。華麗なステップ、正確なロングキック、飛ばしパス、体格に物を言わした突進、モールやスクラムのゴリ押し、こういうことだけがラグビー選手の仕事らしい。負けが決まった試合で大男に向ってタックルするなどというのは無謀なプレイなのだろう。

 筆者は常々里見哲から「君は勝敗に拘りすぎる」と注意される。そのとおりだと自覚はしているのだが、感動する場面がないから、どうしても勝ち負けという結果だけに目が行くことになる。闘志を剥き出しにして戦うなどというのは、いまどきダサい行為なのかもしれない。しかし、そういう物がなくなったら、どこにスポーツの素晴らしさを見ることができるのだろうか。どんな凄い選手でも機械相手に戦って勝つことなどできない。スポーツの素晴らしさは、勝負を超えて人間の限界へと挑戦する者たちの無償の行為にこそあるのではないだろうか。効率よくプレイして勝利を収める。そんなところに如何なる感動があるのか。駅伝やマラソンでは、最下位の選手に対しても、観衆は懸命にゴールを目指して走るその姿に感動して、惜しみない拍手を送るではないか。その拍手の大きさは優勝した選手やチームに勝るとも劣らない。それはなぜか。肉体の限界を超えていこうとする強い意志をそこに感じるからだ。

 ワールドカップはこれからいよいよ本番だ。日本敗退で日本チームのことばかり報じてバカ騒ぎを煽るマスコミも静かになるだろうから、これからが本当に試合を楽しむことができる。プロ野球もこれからが山場だ。勝敗を忘れさせてくれるような感動を心から期待したい。


(H18/6/25記)


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