「地球温暖化防止のためには、おならがでないような食生活をしなくてはならない」と言うと笑われそうだが、おならにはメタンが含まれていて、メタンが強力な温室効果ガスであることを考えると、全くでたらめとは言い切れない。−もちろんその影響は無視できるくらい小さい。− おならに含まれるメタンガスを作り出すのが腸内細菌の一種であるメタン生成菌で、酸欠状態の環境で有機物を分解するときにメタンを生成する。近ごろ新エネルギー源として話題になっているメタンハイドレードの形成でも重要な役割を果たしていると言われている。 このメタン生成菌が東京工業大学の研究者たちにより35億年も前から地球上に存在していたことが明らかにされた。(3月23日付のネイチャーに論文掲載。) メタン生成菌は、人の腸内やメタンハイドレードだけではなく、地球上の至るところで大変重要な役割を担っている。水田やどぶ川でぶくぶくと泡を立てているのをみることがあるが、あれはメタン生成菌の働きで有機物が分解されメタンが発生している証拠で、このメタン生成菌の働きで有機物による汚れが除去され奇麗な環境が保たれている。メタン生成菌が存在しなければ地球は汚泥に塗れた死の世界になっていたかもしれない。 ところで、このメタン生成菌は無酸素状態でしか生息できない。だから酸素が豊富な現在の地球で彼らが生きていることは一寸不思議な感じがするかもしれないが、動物の腸内や水田の土壌など酸素が欠乏した環境はたくさんあり、そこではメタン生成菌がたくさん生息して活躍している。 実は原始時代の地球には大気中にも水中にも酸素は存在しなかった。そのために最初に地球上に登場した微生物はすべて酸素が欠乏した環境に適応していた。だから、嫌気性細菌(酸素を嫌う細菌の意味)であるメタン生成菌が生命誕生のごく初期から存在していたことは少しも不思議なことではない。いやそれどころかメタン生成菌がいてメタンが大気を覆っていたからこそ、地球は氷結せず、その後の大々的な生命進化が可能になったとすら言われている。 こうして35億年もの間、地球の歴史と共に歩んできた我々人類の大先輩メタン生成菌が近年邪険に扱われている。メタン生成菌を水田から除去する方法などが盛んに研究されているのだ。地球温暖化が進行する中、二酸化炭素を遥かに超える強力な温室効果ガスであるメタンの排出が地球環境にとって由々しき問題であるのは事実だ。だがそれは人間が野放図に二酸化炭素を排出したからであって、メタン生成菌に罪はない。彼らはときには人に害をなすこともあるけれど、大体において私たちの生活を助けてくれる。水田に植えられた稲を守り、どぶ川を掃除してくれるのは彼らだ。人間は彼らに感謝こそすれ、文句が言える筋合いではない。お腹がごろごろ鳴ったら、35億年前から地球生態系を支えてきたメタン生成菌のために乾杯しよう。 了
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