☆ 実は不愉快だったWBCの日本 ☆


 WBCで、イチローは、挑発的な言葉を吐き自ら憎まれ役を買って出て日本チームを鼓舞し、チームを優勝に導いたとマスコミから称賛された。だがその言葉は気持ちのよいものではなかった。

 1次リーグの韓国戦の前は「日本には30年勝てないと思うような勝ち方をする」、2次リーグで韓国に敗れたあとは「人生で一番の屈辱」こういう類の言葉をイチローは公然と口にした。

 これはスポーツマンに相応しい言葉ではない。「韓国チームには大リーグで活躍する素晴らしい選手がたくさんいる。簡単には勝てない。」、「日本の方が力は上だと思っていたが、それは間違いだった。」、「二度日本に勝ちながら準決勝で敗れた韓国チームはさぞかし残念だろう。決勝では韓国チームの分も頑張りたい。」こういうのがスポーツマンの言葉というものだろう。

 スポーツにヒール(憎まれ役)は欠かせない、日本にはそういう選手がこれまでいなかったから肝心なところで勝てなかったのだ、などとマスコミは言う。しかし、国内リーグの試合ならばよいが、国際試合ではスポーツマンシップに則った節度ある振る舞いが求められる。さもないと平和を求める国際大会が紛争の原因になってしまう。特に、イチローが吐いた言葉は、ユーモアの欠片も見当たらず、全くいただけないものだった。そこには、経済、科学技術、芸術、スポーツなどあらゆる分野で目覚しい躍進を遂げている隣国韓国に対する危機感から生じた日本人の歪んだナショナリズムの影がちらついていた。「韓国人に日本人の優秀さを思い知らせて遣れ」、「韓国に遅れをとることほどの屈辱はない」イチローの言葉にはこういう卑しい心情が反映していると感じられてならなかった。韓国の監督が日本に勝っても「自分達のほうが上だとは思っていない」と謙虚に語っていたのとは対照的だ。

 だが一番の問題はマスコミにある。そもそもイチローの言葉に対して苦言を呈するのがマスコミの役目のはずなのに、英雄扱いしているのだから話しにならない。一部のマスコミは韓国が日本の優勝にケチを付けたと非難していたが、イチローの言葉に挑発され、優勝でバカ騒ぎをする日本の傲慢ぶりを見せ付けられたら誰だってケチを付けたくなる。しかも大会を通じて何よりも不愉快だったのが決勝戦を中継した日本テレビのアナウンサーだった。「一塁塁審はあの(アメリカ戦で誤審をした)ボブ・デイビットソンです」、「最も有名な審判のデイビットソン」、「私たちはデイビットソンの名前をけっして忘れないでしょう」試合をそっちのけで、こんな詰まらないことをくだくだと言い続けていた。呆れて途中から音を消して観戦していたが、お陰で楽しい試合が台無しになった。ホームタウンデシジョンや誤審はどこの国のどの大会でもある。それで泣いた選手やチームがこれまでどれだけあったことか。それに較べれば日本チームは2次リーグを通過することができたのだから幸運だった。それなのに、最後まで誤審に拘るとは、全くこの幼稚で粘着質なアナウンサーには呆れ返る。だが、このアナウンサーこそが日本のスポーツジャーナリズムを代表していると言わなくてはならないのが現実だ。

 もちろん活躍した日本選手には惜しみない拍手を送る。イチローもその言葉を別にすれば、そのプレイは素晴らしかった。WBC優勝は日本の野球界にとって人気挽回のよい起爆剤となった。だがWBCは、日本人が優秀でもなければ、品格があるわけでもないことを如実に証明した。早くそのことに気がついた方が良いだろう。


(H18/3/15記)


[ Back ]



Copyright(c) 2003 IDEA-MOO All Rights Reserved.