☆ 第10惑星の奇跡 ☆


 「水・金・地・火・木・土・天・海・冥」太陽系の惑星は9つだと教えられてきた。しかし昨年夏、冥王星より遠い軌道に惑星らしき小さな星が発見され、その後の観測の結果、この星が直径約3000キロであり、月よりは小さいが冥王星よりは大きいことが判明した(2月2日付けのネイチャー参照)。今夏開催される国際会議でこの星を第10惑星と認定するかどうか、名前をどうするか議論されることになっているが、冥王星よりも大きく太陽の引力で周期運動しているこの星を惑星ではないと考えることは冥王星が惑星と認定されていることと矛盾しており、第10惑星として認定されることはほぼ間違いない。名前の案としては「Lila」が挙げられているが和訳名はどうなるのだろうか、今から興味津々だ。これまで英語名はすべてギリシャ・ローマ神話の神々の名前から取られていたが、この「Lila」はどこかのWEBサイトから引用されたらしく、和訳するのも一筋縄ではいくまい。因みに「水」星から「土」星までは古代中国の世界観「五行説」に基づき中国で命名された名前がそのまま使用され、天王星から冥王星はギリシャ・ローマ神話の神々の和訳名が使われているとのことだ。

 それにしても、太陽系の新惑星が今頃発見されたというのはちょっと意外な感じがする。

 太陽は銀河系に10億個も存在する恒星のごくありふれた恒星の一つに過ぎず、その銀河系も宇宙に無数に存在する銀河の一つに過ぎない。宇宙全体からみれば太陽系など取るに足らない存在でしかない。

 近年の観測技術と理論の進歩で、宇宙は、137億年前にビックバンで始まり、加速膨張をする所謂インフレーション期を経て曲率ゼロに限りなく近い平坦な宇宙となり、現時点では再びインフレーション期に入っているということまで分かっている。インフレーションの原因は不明だし、将来この説明が間違いだったと判明する可能性も否定できないが、それでも宇宙全体の構造や歴史がかなりよく分かっていることは事実だ。それなのに今頃になって、いわば私たちのお膝元である太陽系で新惑星が発見されたと言うのだから、一寸した驚きというわけだ。

 しかし、これが私たち人間とその科学の特徴なのかも知れない。極小世界の代表である素粒子と場の性質はかなりよく分かっており驚異的な精度で現象や物理常数を予言したり説明したりすることができる。しかし、膨大な数の素粒子の複合体である遺伝子や蛋白質の働きはよく分かっていない。

 私たちの目はマクロな世界しかみることができず、宇宙や素粒子の世界を捉えることはできない。最大の望遠鏡や最大の解像度を持つ顕微鏡を使っても宇宙全体や素粒子そのものをみることはできない。他の感覚も変わることはない。しかし人間の知性は寧ろ無限大の世界や無限小のミクロ世界の方がより良く理解できるらしい。

 専門家ならば、それはマクロの世界が複雑系だからで、不思議なことでも何でもないと答えるだろう。だが本当にそれだけなのだろうか。猿や犬が信仰心を持っているかどうか定かでないが、おそらく超越者という概念を持つことができるのは地球上では人間だけだろう。そして、超越者という概念が切っ掛けとなって、感覚では把握できない無限世界や無限小の世界を私たち人間は数学や論理という道具を使って把握できるようになったのだ。

 第10惑星発見の奇跡は科学と信仰がごく親しいものだということを示しているように思えるのだが、それは筆者の思い過ごしだろうか。


(H18/2/9記)


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