筆者は一応アマ初段程度の実力を持っているつもりなのだが、最近の将棋ソフトには歯が立たない。ソフトの設定で強さを最低レベルに下げて漸く勝てる程度で、普通のレベルで対局したのでは全く勝負にならない。 考えてみれば、コンピュータの処理速度は人間とは比較にならないほど速い。手を読むスピードはプロ棋士と比較しても圧倒的に速いはずだ。だから強くて当然なのだ。だが、筆者程度の者なら赤子の手を捻るように打ち負かすことが出来るが、プロ棋士には未だ勝てない。なぜだろう。 一つの局面で選択できる指し手は、将棋では取った駒を使うことができるので、平均して30から40手くらいある。それを、たとえば50手先まで読むとなると、どんな高速大容量のコンピュータを使っても、天文学的な時間を要する。将棋の勝負は長くなると200手以上になることもあるから、終了間際を除けば、1つの手順でも完全に読み切ることは不可能だ。 だから、数手先まで読んで、その時点でその手順が検討に値するかどうかを判断する必要がある。検討に値する手順をいくつか選択して、それをもっと先まで読んでいく。そして、最終的に様々な手の中でどれが最善かを決定する。 つまり、単純な計算だけでは指し手は決まらない。ある局面で、自分が有利かどうかを判断しなくてはならない。この判断が難しい。将棋ソフトには様々な種類があり、互いに強さを競っているが、局面の有利不利を判断する方法が、それぞれのソフトのノウハウになる。 結局、将棋ソフトがプロ棋士に勝つことが出来ないのは、この判断能力がプロ棋士より劣るからに相違ない。単なる読みの速度では遥かに上回るのだから。 プロ棋士はどのように局面の優劣を判断しているのだろう。どうやって、この手順は先を読んでも仕方ないと見切ることができるのだろう。それが分かれば、アルゴリズムを定めてコンピュータソフトに組み込むことができる。だが、プロ棋士自身がどうやっているのか知らないのだ。 ここに、人間の能力の不思議がある。人間の脳は単純なコンピュータではないという見解が生まれてくる理由もある。 脳がコンピュータかどうかは分からない。だが、将棋ソフトの進化が、この問題に光をあてるだろう。局面の優劣を的確に判断する方法が明らかになるとき、脳の秘密が分かる。そして、人間は将棋でコンピュータに勝てなくなる。しかし、そういう日は本当に来るだろうか。 了
|