☆ ダウンロード販売への道を ☆


 ディルタイ全集第2巻(法政大学出版局、2003/12)として、ディルタイの主著「精神科学序説」第2巻が日本で初めて翻訳・出版された。
 生の哲学者の一人、哲学的解釈学の先駆者と呼ばれながら、ニーチェはもちろんのこと、同じ生の哲学の系譜に属するジンメルなどと比較しても、ディルタイは日本では馴染みが薄い。本書の発行を切っ掛けに現代思想に巨大な影響を与えたディルタイへの関心が高まることを期待したのだが、一向に盛り上がらない。本年4月発行予定だった「精神科学序説」第1巻の発行も遅れている。果たして全11巻が無事最後まで出版されるか不安だ。実際、最初に発行された全集第3巻は早くも絶版状態だ。

 いかんせん本の値段が高い。13,650円だ。これでは、ディルタイが一般読者にも読まれる日は遠いと言わなくてはならない。
 専門書は値段が高いのが当たり前で、この程度の値段では驚くには値しない。とは言え、なぜこんなに高くなるのだろう。

 翻訳者(3名)に支払われる印税を値段の10%とすると、一冊あたり1300円程度になる。哲学の専門書など、おそらく、多くて4000部くらいしか売れないだろうから、翻訳者の手に入る印税は500万円くらいだろう。3人で割ると200万円もいかない。哲学書の翻訳には大変な労力が必要だから、これでは割に合わない。海外の重要な専門書が翻訳されない理由が分かる。翻訳が割に合わない仕事だからだ。
 逆に言えば、だからこそ13,650円などという値が付くわけだ。だが、これでは翻訳した甲斐がない。専門家は原書を読めるから、本当に翻訳を必要とするのは一般読者なのだ。だが、一般読者が購入できる金額を超えている。

 インターネットを使って、翻訳者が直接一般読者に電子版の翻訳書をダウンロード販売できるようにしてもらいたい。私なら「精神科学序説」第2巻の電子版に5000円支払ってもよい。それだけの価値がある。翻訳者が5000円でダウンロード販売できれば、翻訳者が手にするお金は今の4倍になる。一方、読者からすれば半額以下で入手できることになる。しかも低価格化で売れる部数は増えるはずだから、翻訳者の収入はもっと増えることになる。
 正確に言えば、原書の発行元への支払いが必要だから、こう上手くは行かない。だが、それを差し引いても、翻訳者の収入が増え、読者が安く購入できるようになるのは確実だ。こうなれば専門書の翻訳がどんどん進むことも期待できる。

 作家も翻訳家も、今はパソコンやワープロで文章を書く。だから、電子版を作ることは簡単だ。哲学書など図表がないから、テキスト形式だって構わない。哲学の専門書の翻訳を買う者は、少々読みにくくても苦にしない。そもそも哲学書を読むこと自体が大変な労力を要するのだから、パソコン上で綺麗に様式が整っていなくても文句は言わない。

 ダウンロード販売をおこなうことは技術的には簡単だ。料金回収や個人情報保護の問題があるが、信頼できる料金回収代行会社に依頼すれば解決できる。

 著者や翻訳者による著作物のダウンロード販売には出版社や流通業界から反発があるだろう。だが、哲学書のような専門書など大した売上ではないから業界に与える影響は小さい。それと比較して、良質な思想書が広く一般読書の手に入るようになることの社会的な意義の方が遥かに大きい。技術的な問題はないから、後は仕組みの問題だけだろう。是非、早急に実現へ向けての取組を進めてもらいたい。


(H16/5/17記)


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