☆ 社会を構成するもの ☆

井出 薫

 「社会」という言葉はよく使われるし、誰もが知っている。だが、「社会とは何か」と問われると、一部の社会科学者や哲学者を除くと、理路整然と説明できる者はいない。書籍や論文などをみても、「社会」の定義は千差万別で、これと言った決定的な説明はない。そこで、社会とは何か、少し考えてみる。

 「社会とは何か」という問いと、「社会を構成するものは何か」という問いは違う。だが、社会を構成するものが何かを考察しないと、社会を論じることはできない。そこで、まず、社会を構成するものを列挙する。

 人の集合体が第一に挙げられる。人のいない社会はない。蟻や蜂を社会性昆虫と呼ぶが比喩に過ぎない。ただ、人が集まっただけでは社会にならない。人の活動と相互関係も欠かせない存在として社会に含まれる。ただし、身体とその活動は自然に属する。それゆえ、自然とは異なる社会を構成する人とその活動及び相互関係とは何かを論じる必要がある。これについては後述する。

 社会は、単なる集合体の名称ではない。社会は、それ自身が個々の人とは独立した目的を持つ有機体のような存在者として現れる。社会を実在者として扱わず単なる記号と捉える社会唯名論の立場でも、それが自律した存在者であるかのように振舞うことは認めている。それゆえ、全体的な目的も社会の構成要素となる。

 人は他の生物と違い自然には決して生まれないような様々なモノを制作する。建築物、道具、機械、総称としての都市などのモノの存在は人という存在を特徴づける。それゆえ、それらのモノも社会の構成要素となる。

 先に答えを保留した人と人の活動及び相互関係を自然と分かつ者は何か。それは、人とその活動及び相互関係が自然法則とは異なる規則・規範に従うことだと見ることができる。規則・規範は掟、慣習、信仰、法などとして現れ、規則・規範を司る機関とともに、社会の欠かせない要素として在る。それらを総称して、制度と呼んでもよい。制度の存在により、人とその活動及び相互関係は、自然的存在としての身体とその活動から区別される。

 自然は、概念的には、社会と対立する存在であるが、自然の様々な要素は社会に欠かせない。土地はその代表で、社会が成立している場所では、土地は単なる物理的な陸地ではない。現代においては、海洋と空もまた社会の構成要素となっている。

 こうして、社会を構成するものとして、人とその活動及び相互関係、全体としての目的、人の活動が生み出すモノ、制度、土地・海洋・空を挙げることができる。そして、これを手掛かりとして、「社会とは何か」という問いに接近する道が開ける。一方で、「社会とは何か」という探求が、再び、社会の構成要素を見直す切っ掛けとなる。こうした一連の繰り返しの中で、社会と歴史の諸問題を解明することが可能となると期待される。


(2021/1/23記)


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