☆ 哲学と教育 ☆

井出 薫

 デューイは、哲学とは教育の一般理論であると述べている。これはぴんとこないかもしれないが、正しい見方だ。

 自然は人間の意志から独立した法則で特徴付けられる。重力の法則を知らなくても私は重力の法則に従っている。近代物理学を知らなかった古代の人々や他の生物も重力の法則に従っている。自然法則に従うために自然法則を学ぶ必要はない。

 一方、社会は規則の集合体として特徴付けられる。規則は法則と異なり自動的に従うことはできない。規則に従うには、まず規則を学ばなくてはならない。物理法則に従うために物理法則そのものを学ぶ必要はないが、物理法則の研究や学習をするには、それに必要となる社会の規則−学校に行き学則を守って勉強をする、など−を学ばなければならない。

 人は社会の成員として生きていくために規則を遵守する必要があるが、そのためには教育が欠かせない。教育があって初めて社会が成り立つ。教育は社会の根幹だ。

 教育されるべき科目は極めて多岐に渡るが、科目によって異なる教育方法が採用されたのでは教育活動は円滑に行なわれない。だから組織と方法において一貫した思想と施策が必要となる。それを考察することこそ、諸学の王たる哲学の使命だ。

 西洋哲学の原点とも呼ぶべきソクラテスは偉大な教師だった。青年達との対話に残されたソクラテスの言葉と実践は、どのような教育が必要か、どのような方法を採用するべきかを教えている。ソクラテスの生き様に哲学が教育の一般理論であることが示されている。

(H19/7/16記)


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