☆ 測度とルベーグ積分 ☆

井出 薫

 0から1の間で、有理数では0、無理数では1の関数を0から1まで積分すると答えは幾つになるか。高校で習う積分、その拡張であるリーマン積分では答えは出てこない。有理数も無理数も稠密性を持ち、どのような数ε(0<ε<1)を選んでも、任意の近傍(ε+δ、∀δ|δ|>0)に無理数も有理数も必ず含まれるからだ。

 だが、測度という概念を導入すると、この問いに答えが与えられる。0から1の間にある有理数の測度は0、無理数の測度は1となる。測度とは長さの概念を一般化したものと考えてもらえばよい。

 値が1の領域(無理数の集合)は長さ1を持ち、値が0の領域(有理数の集合)は長さ0を持ち、だから、1x1=1で積分の答えは1となる。

 このような測度の概念を持ち込んで定義されたのがルベーグ積分で、積分の対象となる関数が連続関数の場合には通常のリーマン積分に帰着する。つまり、ルベーグ積分はリーマン積分を包含しながら積分の概念を拡張したものと考えてよい。

 有理数では0、無理数では1などという奇妙な関数がどんな役に立つのかと疑問に思う人もいるかもしれないが、案外そうではない。物理学では、特定のパラメータが有理数であるときには周期解(たとえば三角関数で表現できるような解)となり、無理数の場合は非周期解となる系がごく普通に存在する。一般的に、非周期解で表現される系では(最近流行?の)カオスや複雑系と呼ばれる状態が生じて、理論的にも工学的にも非常に興味深い。

 だから、有理数と無理数で値が全く異なる、至るところで不連続な関数というものも現実に役に立つ。そして、それを適切に処理することができるルベーグ積分も単なる理論的な興味だけではなく実用的な意義がある。

 ルベーグ積分は、座標系の横軸から関数の縦の値を見ていたリーマン積分の発想を逆さまにして、縦から横軸の長さを見るという発想から生まれた(詳細は本を読んでもらいたい)。正にコロンブスの卵だ。数学を勉強することは固い頭を柔らかくする効果がある。毛嫌いしないでたまには数学の本を紐解かれてはどうだろう。


(H17/8/16記)


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